急須や土瓶を運んだり、湯呑みを載せたり、讃々舎には茶にまつわる佳い道具が揃う。お盆好きという店主、高梨武晃さんの嗜好が表れているのだろう。僕はそうしたパーソナルな好き嫌いが明確な店が大好きだ。一般の好みではなく、自身の好きを貫き通す空間で、暮らしを愉しみ、心豊かにする物を買いたい。無難ではなく、尖った志向に惹かれる。
TAXが2%増えたことは自身の消費にはさして影響はないと思っていたが、区切りのよい数字になって税抜価格にあとどれだけ追加しないといけないのかわかりやすくなってしまった。えっ、そんなにと今まで意識していなかった数字に物欲が抑えられる。売場で瞬時に算出しにくい9%とか、9.5%とかにしておけばよかったのにね(笑)。しばらくは税込価格で、しれっと店頭に並べるのがスマートな商いだと僕は思う。
といいつつも、仕事に必要だからと、個人的な必需品を武晃さんの眼で選び取った物を探しに行く。鳥取で出合ったという森山ロクロ工作所が制作したと思われる右のケヤキ老木・拭き漆茶卓に眼がまずいった。鎌倉「もやい工藝」が店で使っているのを見かけて、ずっと欲しいと願っていた物だから、1枚買おうとすぐに決めた。そのとき、武晃さんが「こんな物も益子で見つけましたけれど」と左側の茶卓を奥から出してきた。
写真ではわかりにくいが、裏側のカーヴがこんもりとふくよか。指触りが官能的に心地よく、どっしりと安定感と存在感がある。その佳さに心移りして、こちらを特別に譲ってもらうことにした。益子から出たということはS.H氏がらみの物かもしれない。
武晃さんいわく、平穏無事な器では茶卓に負けてしまうかもしれませんねという。作家的な個性がある物、あるいは技術が突出した陶工による物。確かにと深くうなずき、とっておきの湯呑みを棚から出した。恩師が日本一と崇敬した小鹿田焼、坂本茂木さんの湯呑み。高台の削りと縁の反りが素晴らしく、手にぴったりと収まる。割れたら、どうしようなんて迷わずに、仕事場で日々使っていこう。これにちょっとかわいい出西窯、丸紋土瓶を合わせるのが僕らしいバランス。名陶工、蔭山善市さんが手がけていた時代の優品だ。
LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4