恵比寿のブックストア「POST」がインスタ投稿した美しい一冊に一目惚れ。スウェーデン出身、ニューヨーク在住のイラストレーター、マッツ・グスタフソンの作品『SWAN』。
手描きの線、濃淡、余白に魅了された。2010年の出版で入手は容易ではなくなりつつある。相場に比して良心的と思いつつ気軽には買えない売り値。しかし、POSTの綿多多希子さんが個人的に手元に置く数少ないアートブックという記事を読み、背中を押された。
そこで購入の条件として自身に課したのが、夜の皇居で白鳥をグスタッフソンのパステル画のように撮影すること。暗闇の濠に浮かぶ白鳥。白と墨のコントラストを余白たっぷりに写しとめられたら『SWAN』の購入資格が自分にはあると思い込むことにした(笑)。
築地の仕事場から歩いて30分弱。広漠とした皇居外苑の暗がりと、官庁街やオフィスの灯りとの対比が劇的。まずはしばらくこの空間にたたずみ、心を鎮めた。
昨年末、皇居の一般参観を取材した際、白鳥が居そうな水域と行動パターンを下見した。
目指すは大手門そばの桔梗濠。面する内堀通り歩道は真剣なランナーが行き交うし、警官が眼を光らせている。白鳥の泳ぎも優美ながら速いから、三脚の使用はあきらめた。ISO感度1600以上の高感度、手持ちでモノクロ撮影に臨んだ。
はたして予想通りの場所で白鳥を視認できたときは「いたいた!」と思わず独り言が漏れ出た。小躍りして濠の手すりに駆け寄り、カメラを構える。その姿を見て、餌を期待して白鳥がスーッと寄ってきた。これも想定内の動き。しかし、マニュアルで焦点を探るが難儀。そこでブレを承知で、露出を絞り、念ずるようにシャッターを押した。
明らかなアウトオブフォーカス。すぐに単なる撮影者だと悟られ、たちまち視界から消え去った。その後、しつこくトライを重ね、かろうじてグスタフソン風の絵を押さえられた。これで『SWAN』を買えると喜び、達成感を胸に東京駅へ向かった。写欲、物欲が満たされ、記憶に刻まれる晩冬の宵になりそうだ(笑)。
PANASONIC GF-1 , MACRO ELMAR90mm / f4
アダプター使用で、撮影倍率は180mm