2016年4月1日金曜日

日本の手仕事をつなぐ旅



鎌倉「もやい工藝」店主であり、手仕事フォーラム代表だった故・久野恵一さんの眼に魅せられて、その豊富な知識と体験を書き留めておきたいと考えたのは10年前のこと。恵一さんが師事した宮本常一さんを超えるフットワークで日本中を旅して、出合い、見出し、助言・指導の末にかたちにした美しい手仕事の良品について詳しく知りたい。そんな想いから相談し、手仕事フォーラムHPでの連載記事がスタートしたのでした。毎月、鎌倉佐助の谷を訪ね、店奥のスペースで恵一さんの熱い語りに耳を傾け、その音声をテキストに起こし、恵一さんの美しいもののお手本として示してくださる物を撮影。当初、100話で完結させようと考えていたのですが、110ものストーリーを記録することができました。美しいものとは何か? もののどこを観ればよいのか? 美の見識についてのお話はもちろん、美しいものが生まれる土地やおいしい食べものなど、旅の情景が目に浮かぶような言葉の数々に心躍る、豊かな時間を過ごすことができました。日本の佳い手仕事を残していきたい、現代の暮らしに合うよう手助けしたい。そんな願いで超人的な活動をしていた恵一さんの眼と心、旅の様子を忠実にまとめる本が出版されます。




「日本の手仕事をつなぐ旅」(グラフィック社)。来年にかけて4巻に分けて出版され、第1巻の焼き物編(うつわ)が4月に発売予定ですが、「もやい工藝」のみで先行販売されています。恵一さんが選び、もやい工藝で撮影した手仕事良品をすべて恵一さんが信頼するフォトグラファーが再撮。白バックに自然光を活かし、最小限のストロボ光をあてた簡素な写真が秀逸。物を集めなおした、恵一さんの長男・民樹さん、編集者・笠井さんの尽力にただ頭が下がります。



文中の専門用語もていねいな解説が添えられている。これが素晴らしい! 再撮にあたって、もやい工藝でどうしても見つからなかった物については、恵一さんが慕っていた横山正夫さんとっておきのコレクションに差し替え。その分、HP上の記事には無い良品を観ることができます。

10年間続けたことが、最善のかたちで本となる。奇跡のような編集者の存在と能力、深慮に深謝。長年の願いがかない、もうこの世に未練がないほど、深く深く心が充たされています。きっと恵一さんも満面の笑みを浮かべていることでしょう。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH.