2017年12月18日月曜日

念具に惹かれる


チベットへの仕入れの旅から戻ってきたばかりの骨董商KIHACHIさんが選ぶ、とっておきのコレクション級マスターピースを「チベット工藝ZINE」のVOL.2制作用に撮影。


この日は、可愛い獅子の絵が描かれた赤漆のキャビネットに激しく心乱れる。民藝の創始者・柳宗悦が観たら、即買うのではないかと感じた超一級品。鴨長明が暮らしたような、ミニマルな平屋小屋を棲み家にしたら、チベット僧が使うコンパクトでポータブルな、こんな家具を最小限持ちたいと夢想する。


つい先日、チベット・ラサの茶屋で休んでいたら、マニ車をくるくる回しながら入ってきた、恰幅のよいオバちゃんにバター茶を奢らされたKIHACHIさん。その豪胆ぶりに感服した彼が、自分にはない強欲を備えたいと願い、手元に置こうと譲ってもらったラマ車。チベット庶民がふつうに持つ類のラマ車で価値はないという。でもぼくは滑らかに回転するようにしたり、補強している工夫の跡や、ターコイズのラフな留めかた、使いこまれた物特有の佇まいに惹かれて猛烈に欲しくなった。中心をはずして孔が開いたコンク貝も佳い感じだ。今は手放す気がないというKIHACHIさんの気が変わるのを根気よく待とう。


撮影後、KEEPしておいてもらったものを受けとる。ひたすら祈り、明るい光がさすのを待ちたい今の精神状態を受とめてくれそうなもの。KIHACHIさんが見出してくる美しいものは、そんな願い、祈りをこめて携える「念具」(ぼくの造語)がたくさん含まれている。これはイスラム教の数珠テスビィ。聖人の名をシルバーの象嵌で施している。イスタンブールで出合ったものだそう。


これは西チベットのアーリーかヒマラヤ近辺からラサへ巡礼する人が持っていたと思われる携帯クリスタル。


KIHACHIさんはヒマラヤか、聖なる山カイラス産の水晶ではないかという。この鉱石の大きなものをずっと欲しかったし、特別で純粋な想いがこめられたものだから、ぼくの今の心情も重なり、身につけたくなった。首に絶えず掛けていると、心が明らかに鎮まる気がする。胸に手をあてるたびに穏やかな心地になれる。KIHACHIさん、善きものに導いてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4
SIGMA DP3 MERRILL 75mm f/2.8