2019年4月21日日曜日

URUSHI



 10年ほど使っていた秋田・大館の秋田杉曲げわっぱの底がかすかに空き、おかずの水分が染み出るようになった。修繕を考えたが、白木の経年変化による黒ずみが気になったのと、めっきり小食になって米をたくさん食べられなくなり、ここは替えどきかなと、ずっと目をつけていた長野・奈良井宿「小坂屋漆器店」の丸小判型曲げわっぱを買った。こんどは木曽サワラと木曽ヒノキに拭き漆を施したのもの。最小サイズを選んだ。平穏無事なかたち、誠実な値段。少しもいばっていない健やかな手仕事良品。



白木は多湿な関東ではそれなりの作法が求められる。洗剤を使わず、きちんと乾かして使ってきたつもりだが、それでも黒く変色する箇所が出てきてしまう。拭き漆なら、その心配が軽減されるかもしれない。



食べ終えたら、水洗いして、しばらく南九州の「タラシ」という水切りザルに置いて自然乾燥させてから仕舞う。



このタラシは無名の工人が緻密に編み組みした。恩師は腕を見込み、底面をあえて水切り性が若干劣る網代編みにしてもらったという。本来のタラシにはない繊細な編み方。機能優先のはずの日用品が美しくアレンジされる。その眼と心の働きに僕は魅せられる。10年間、毎日使って佳い飴色に育ったのも喜ばしい。

LEICA M-E , MACRO ELMAR90mm