水曜日の夜、ATELIER MUJI GINZA Loungeにて、「包む」こととデザインについて、岡秀行が考えたこと、を拝聴。
自分の家の土間みたいな空間でくつろぎつつ、物とじかに向き合える書籍をデザインした、岡 秀行さんという稀有なアートディレクターについての深い話に耳を澄ます。
表現しないデザインとは。佳き物に向き合うこととは。「包む」という日本伝統の美しい心とは。岡さんの著作を通じて説く、2時間近い多摩美術大学准教授・佐賀一郎さんの解説が心に響いた。包まれた物の美を象徴的に表す表紙。MUJI BOOKS特装版はタイトルが墨色で控えめに箔押しされ、物だけが眼に入るよう配慮。しかも裏表紙のバーコードさえ、簡単にはがせる仕様。伝えたい主題を簡潔に見せる誠実な装丁で、編集者の究極的な夢を具現化した一冊。無印良品銀座4階では交通系ICカードでも購入できるようになって、有楽町にMUJI BOOKS店舗があったときとの違いが個人的には嬉しすぎる(笑)。
登壇者のひとり、木挽町・森岡書店、森岡 督行さんが蒐集した、岡さんにまつわるヴィンテージ本を自由に閲覧できたのも幸せ。プレミア価格がつく稀少本のなかでも、日本の工業ミシンを海外に紹介した『JAPAN SEWING MACHINE GUIDE BOOK』はたぶん日本でも僕だけしか持っていないんじゃないかなと、本郷の予約制古書店「アルカディア書房」で発掘したときの興奮を森岡さんが語った。
貴重な機会とページを舐めるようにめくり、35 名近いまわりの参加者に回すが、なぜか何度も自分のところに戻ってくる。これは「あなたもこの本を探しなさい!」という啓示なのだろうか(笑)。102歳まで生きた明治生まれの祖父とほぼ同い年の岡さん。日本のハイカラを広く知らしめようとしたモダンな先駆者だったんだなぁと感慨にふけった。
奈良県吉野「釣瓶鮓本家弥助」の鮎鮓のパッケージ。今回の催しのためにかつて使われていたこのパッケージを特別に復刻したそう。本で紹介されている魅惑の「包み」は現存するものもありそうなので、これから意識して探すようにしてみよう。もちろん、未掲載の現代のパッケージも含めて。新たな視座を得た銀座の夜に感謝。
LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4