定期的に取材を重ねている「すみだ北斎美術館」。浮世絵の展示も、テーマに沿う企画も、建築・空間も素晴らしいが、錦糸町駅までの帰路も毎度、愉しみ。
駅前の「山田家」本店に寄り、地域の七不思議にちなむ人形焼をSUICAで数個バラ買い。すみだ北斎美術館が立つ土地は江戸時代に弘前藩主・津軽越中守の上屋敷があった。屋敷は火災を知らせる火の見やぐらを備え、板木を鳴らすと太鼓の音が響いたとか(板木のかわりに、太鼓が下がっていたという説も)。その奇怪をモチーフにしたのが太鼓型の人形焼。3年前の6月31日、これを土産に持ち帰ったら、深夜に愛犬が階段から転げ落ちて気を失った。いわゆる年老いてガクッとくる瞬間がたまたまその晩だったのだ。そんな哀しい記憶が太鼓型を眼にするたびに蘇る。
それで、不運と菓子の関連はないと思いつつも、以降は同じく七不思議に登場するたぬきの型を選ぶようになった。ぼく自身は江戸でいちばんおいしいと慕う1匹108円の人形焼。昭和26年(1951年)生まれのたぬきの薄いお腹は、ぎっしり詰まったこし餡ではちきれそう。茨城・奥久慈卵をたっぷり用いたしっとりとした生地と、北海道産最上級小豆が醸すコク豊かな餡の甘さに身も心もとろけちゃう。焼きたてはもちろん、翌朝冷めたのを食べてもふんわりとしたやわらかさを味わえるのが素晴らしい。この菓子が買えるから、錦糸町は大好きな街なのだ。
SIGMA DP3 MERRILL 75mm / f2.8