2020年3月15日日曜日

白いもん



戦国時代に朝鮮から連行された技術者により始まった鹿児島県の薩摩焼。その創始のとき以来、島津藩御用達だった高級陶器の「白もん」を手がけてきたのが沈壽官窯(ちんじゅかんがま)です。一部の人が愛でる「白もん」を装飾を取り払い、ふだん使いできるものはできないか。鎌倉「もやい工藝」および手仕事フォーラム代表だった故・久野恵一さんの働きかけで突拍子もないプロジェクトが始動し、その意志を長男であり、現代表の久野民樹さんが継いで、ついにひとつのかたちができあがりました。先日から23日まで第一弾の焼き物が「もやい工藝」の店頭でお披露目されています。



この展示販売を昨年から心待ちにしていたので、初日の開店時に駆けつけ、眼をつけていたものを求めました。民樹さんに持ってもらった、この汁碗です。



沈壽官窯は現在も精緻で華やかな白もんを制作しています。一方でその高級路線とは対極的な無地の平常無難な器が同じ窯元から生まれるということに率直な驚きを覚えました。平皿、深皿、ご飯茶碗、湯呑み、カップ&ソーサーなど花瓶以外の器は各地の古い焼き物から着想を得たかたちだそうです。無地の乳白はどことなく上品さをまとっています。安定感に優れた外見ですが、手に持つと思いのほか軽やか。陶工の高い技術を想像しました。



これは1年ほど民樹さんが使用した試作品。使いこむと、とてもきめ細やかな貫入(ひび)が入るのが、この窯元の特徴なんですって。その景色が豊かな風情を醸します。購入した汁碗は無添加の生マッコリや濁り酒などを満たす酒器として愛用していきたいと思っています。ぼくはこのかたちから李朝の器を連想しました。

明日に続く

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4
Panasonic GF-1 , MACRO ELMAR90mm /f4 with LEITZ 16469Y