2016年2月1日月曜日

ヨコハマの畑



以前「湘南スタイル」という雑誌で湘南、三浦で第一次産業に従事する人と仕事を取材する記事を担当していました。当時から横浜にも多くの農家があると耳にしていたのですが、訪ねる機会はなく、ずっと気にしたままでした。先日、「3pmさんじ」の横田さん、「スマート・ウィメンズ・コミュニティ」の東さんのご厚意により、横浜の農家の方にお会いでき、農業の新しい取り組みに触れる、貴重な機会を得られました。横浜市保土ヶ谷区西谷(にしや)で13代目として100品目もの野菜や果実を露地栽培している苅部博之さんに谷の上、住宅地の間に点在する畑を案内していただきました。




苅部さんから横浜市は県内でいちばん農地面積が広いということを冒頭にお聞きし、驚きます。また、畑のすぐそばに住宅が迫る風景はちょっと不思議な感じがしました。




冬の葉ものに覆われた畑。別の斜面ではレモンを栽培し、季節によってはブルーベリーの摘み取り体験もおこなっているそうです。横浜で果実とは意外に思えましたが、温暖化により、今後は従来は不可能だった南方の果実も育てられるかもしれないそう。ちなみに横浜にはアヴォガドやバナナを栽培する農家がおられるようです。露地栽培でおいしい野菜を育てるには昼夜の気温差が大事で、夜に空気が冷えこむのが望ましい状況。それが温暖化により緩まっていくのが問題となりそう。しかし、苅部さんはデメリットばかりでなく、すぐ前向きにメリットを取り上げる姿勢がいい。




かたちが均一化しやすく、病気になりにくいよう品種改良されたF1種ではなく、かたちは不揃いになりやすいけれど断然おいしい在来種の野菜、果実を育てている苅部さん。横浜は三浦市の三浦ダイコンのような際立った名物的な品種はないけれど、そのぶんいろいろな新しい野菜づくりに取り組んでいける自由さがありますと語ります。その言葉にこれからの世代の農業に夢を感じます。




おいしい野菜を育てたい。そんな気持ちが結実したのが、自らの名前を冠した「苅部ダイコン」。紫色のヴィヴィッドカラーが緑に映えます。その部分を卸すと、きれいなピンク色で見た目もきれい。




畑で苅部ダイコンを収穫させてもらいました。苅部さんは採りたての野菜、果実をその日の午後、直売所で販売されています。遠くに輸送するのではなく、地域の人に消費してもらう。Co2排出という環境に負荷をかけない農業を意識をもって実践されているのです。




収穫した苅部ダイコンを食材に、横田さんがクッキング講座をひらきます。畑で見たこと、聞いたことを食を通じて理解を深められる流れ。




旨味が深い。今まで口にしていたダイコンはなんだったのだろうと、まずおいしさに感嘆。そんなおいしい食材はシンプルに調理することで、より生かされてきます。苅部ダイコンのもうひとつの特徴である色の美しさを活かして横田さんはレシピを用意されていました。




ぼくにも調理できるやさしい料理。油揚げやジャコ、レモンの皮など食感や香りのアクセントになるものを少し混ぜるとより華やいだ印象に。




4つのグループに分け、食材は共通ながら、調理はそれぞれ自由にまかせる。ダイコンのヴァイオレット・ピンクの色彩をいかに見せていくか、アイデアがさまざまなのがおもしろい。




これがベストと決めつけずに、創意工夫と感覚に委ねるクッキングが横田さんらしくて、いいなぁと思いました。




素朴な盛り付け。これはぼくのグループによるもの。葉も上手に使いきることができました。この葉がまたとても旨いのです。ダイコンを薄く切ることで、火を使う時間をミニマルに、余熱でうまく調理できることも学べました。「LOW FOOT FOOD」についての話もためになったなぁ。CO2排出の負荷をより少なくする食材を選ぶ意味が、こうして食体験に完結することで、理解を深められる気がします。




この日の夕飯に、苅部ダイコンのステーキをいただきました。実は他産地のダイコンでもステーキをつくってみて比較してみたのですが、旨味が全然違う。妻も驚いていました。苅部さんの直売所は妻の実家のそばなので、改めて買いに行きたいな。ぼくが取材していたころより、農業を食文化と深くつなげ、若い人たちの関心の高まりと実践がぐんと広まってきているように感じます。ぼくも、実践する人たちにできるだけ会って、これからの農業、食を知る努力をしていきたいです。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH.