2016年1月10日日曜日

視野をスイッチ



風景をのびやかに撮るのに適した広角レンズ、自分の見た通りに写る標準レンズ、細部に見入ることができるマクロ(望遠)レンズ。遠くから近くまで、この3つのレンズでスナップを愉しんでいます。散歩にはほぼライカのデジタルカメラを携えていくのですが、3種のレンズを頻繁に交換せず、ある程度の期間、ひとつのレンズを使い続けます。そうして、そのレンズが収められる風景や物の範囲が目に馴染んだころ、別のレンズにスイッチ。すると、ふだんの散歩道をより新鮮な眼でとらえ、愛でられる気がします。




ライカのエルマリート28mm第4世代。このちょっと古い球面広角レンズは、外見も描写も地味。しかし、その地味なレンズが描く穏やかなコントラスト、油絵具のようなこってりした色合いに魅せられています。たとえば上の日陰部分。現像ソフトの操作でいかようにも明るくできます。その調整幅のゆとりが最新レンズと比してとても大きいのです。人によっては「暗いじゃん!」と率直に感じるかもしれませんが、朝の光らしさを出すべく、斜光で影となる領域をあえて明るくしていません。それでも、眼を凝らすと影の細部がじんわりと浮かぶように感じられないでしょうか? この緩やかな諧調と、やや赤、黄色が強めに出る色調は白と黒だけの表現でより活きてきます。写真の腕が上達したのではと思い込んでしまう、惚れ惚れするような、雰囲気のよいモノクロ写真が撮れます。




平穏で懐かしい風景を撮るのにふさわしい。




ぐっと寄ることもできる。


陰影の差が激しい場面でも、暗部の様子をそっと伺えるのは、古いレンズのやさしさ。このレンズを手に入れて26年あまり。突出した個性や性能が際立つわけではない。ごくふつうのレンズの凄味にようやく気づき始めたところです。フィルム時代に生まれたレンズだけど、デジタルライカでいっそうと奥底に潜む実力が引き出されてくる印象があり、嬉しくなります。

LEICA M-E , ELMARIT28mm 4th Generation