2017年5月31日水曜日

ロバのブランケット


ウズベキスタンを取材していたとき、極度に乾燥した砂の大地が広がる田舎町のマーケットでロバに乗る少女に遭遇。食材の買い出しにきていた彼女。家とマーケットをロバで往復し、たいへんな重さの荷物を運んでいた。地域の子どもはロバで学校に通うのだという。学校まで子どもを送り届けたら、ロバはしょんぼりと校門の外で退屈そうに待っている。そして、下校時、子供が校内から姿を現し、ようやく家に帰れるとなると、はしゃぎ、憂鬱な往路とちがい、復路は足運びが軽くなるそう。小柄ながら力持ち、働き者の小型馬が率直に気持ちを表す。その表情や様子を想像したたとき、ロバが愛らしく思え、抱きしめたくなりました。同時にそんな穏やかで豊かな暮らしに憧憬の念を抱きました。


先日、横浜関内の建築事務所で催された骨董市に、大好きなロバに掛けるブランケットが出品されると聞いて、欲しくてたまらなくなりました。丈夫な分厚い布の上部は十字のスタンプが押され、下は十字絞りで染められている。十字絞りの布はチベット仏教僧が僧衣として纏い、祭壇や座布団として敷くなど、祈りと密接につながるもの。その布をロバの体を気づかい活用している。そんな物の背景に魅了され、分けてもらいました。


この布を見つけてきたのは、チベット文化圏を中心に頻繁に旅して、美しいものを集めてくる喜八さん。大和市の古民具市で出会って、審美眼の確かさ、センスのよさに感服。たくさんの業者のなかで、美の観点で光り輝く異質の存在だった。以来、ときどき彼の選ぶものを分けてもらってきました。常に旅をして、人脈を駆使して、深いところに分け入り、佳い物を見出してくる。その旅のスタイル、美しいものを見極める心眼と見識をリスペクトしている。そんな喜八さんの旅と選ぶものを、チベット文化圏を主軸にして本にまとめてみたい。そう思うだけで、久しぶりにドキドキと胸が高まりました。実現への道は険しいかもしれない。けれど、この夏から、その一歩を踏み出していきたいと思います。

HASSELBLAD500CM , CARL ZEISS PLANAR80mm f/2.8
LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4