2017年8月2日水曜日

モスグリーンの瓶


鎌倉「もやい工藝」での涼夏の会。全国から店の審美眼に沿った吹き硝子良品が集まっている。全体としては同じ方向を向いているものの、色とかたち、それぞれの工人に大きな違いが観てとれる。そして、それぞれに別の魅力がある。眺め、使う日常のシーンを想い浮かべて、どれにするか大いに悩み、ひとつだけ自分の住空間に招き入れた。それは、ずっと以前から惹かれていた、福岡県小石原の太田 潤さんの硝子だった。

太田さんは、我が家でもっとも食卓に並ぶ率の高い、太田哲三さんの櫛描き器に通じる、洗練と骨格を感じる。父とは違う道を歩んでいるのだから、印象を重ねられるのは、潤さんにとって心外かもしれない。DNAを継承しているなんて安直な表現はしない。だけど、重心の低く、肩の張った硝子の造形には、他の吹き硝子工人にはない、どっしりとした力強さがあるし、繊細な硝子素材なのに、陶器に近い硬質さを想起するのだ。その腰の据わったかたちと力感を僕はとても好ましく思えるし、観て触れて活力をもらえる気がする。


潤さんの硝子製品のなかでも、個人的には瓶、しかもモスグリーンの色に魅せられる。深いグリーンの色合いがじつに佳い。潤グリーンと呼称してもよい独特の色味ではないだろうか。潤さんに尋ねると、緑色の再生硝子素材のみならず、板硝子も用いているという。試行のすえ、行き着いた独自の発色なのだろう。焼き物と並べると、土と硝子の領域の違いを越え、一体化するように馴染み合っている。この景色を毎日愉しめるのが幸せだ。

僕が迎えたのは、口を平らにして花挿しとしてつくられた瓶だが、同じかたちでも、口にアールが出ているものは、一口酒器として使う人もいるらしい。その曖昧な感じからも、工人の心と眼、美意識が伝わってきて、潤さんのファンになってしまった。これから、出合うたびに、少しずつ、いろいろな潤グリーンの瓶を手に入れていきたい。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4