尊敬する編集者・岡本仁さんが僕の仕事場近くの魚料理店から投稿したインスタグラムのコメントに触発され、映画『パターソン』を鑑賞。ニュージャージー州の町パターソンで州営バスの運転手を務める男。車窓から見えるものをモチーフに詩を描き、穏やかな日常を淡々と過ごす一週間を描いた作品。6時15〜30分に目覚めアーティストの妻にキスし、同じシリアルを食べ、サンドイッチが入ったスタンレーの小さなランチボックスを手に歩いて職場に向かう。始業前に運転席で詩を描き、仕事を終えたら犬の散歩途中に馴染みのバーに寄り、レスターヤングのジャズが流れるカウンター席でビールを呑む。そんな繰り返しのなかにも毎日ちょっとしたハプニングが起こる・・・。
さりげないウイットを盛りこんだ脚本、絶妙なキャスティング、美しい映像すべてに心酔し、余韻が心の奥に残り、監督・ジム・ジャームッシュの創出した世界観に魅了された。
朝5時半に起き、同じ列車の同じ車両・ベンチシートに座って仕事場に向かい、始業前にblogを書き、粛々と同じ仕事を進める。夜にはビーチで犬の散歩をしたあと晩酌する。週末は決まったコースをジョギングする。僕の日常は主人公の日々に似ているようで少し違う。むしろ変化の度合いは僕の日常の方が大きく、住居周辺の環境も恵まれていかもしれない。それでも、主人公の平穏な暮らし、心の持ちよう、地味なパターソンの町なみに羨望する。そう感じる理由は何なのか、自問しながら鑑賞後の日常を送っている。
ジム・ジャームッシュの秀作。何度も繰り返し観て自分の心の根源を探りたい。岡本さんの呟きに感謝。
主人公・パターソン役のアダム・ドライバーの抑制が効いた演技にも賞賛したい。鑑賞後、能を観たあとのように心が落ち着き、穏やかな心情を自分には珍しくずっと保てた。いつもの風景に優しい眼差しを向けることができた。
LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4