2018年2月21日水曜日

オグリさんのzine


鎌倉で古書店「ウサギノフクシュウ」を営んでいたオグリさんからzineを受け取る。店で扱った本をめぐる映画のようで本当の話。本のタイトルにつながる愉快なオグリさんの体験に心温まる。登場する17冊のうち1、2冊目と5冊目は誰かに読み継いでもらおうと、ぼくが持ちこみ、オグリさんに買い取ってもらった本。


『Plates and Dishes』は葉山「sunshine+cloud」のレストハウスで手に取った写真集。オーナーの高須さんがお気に入りの本を数冊だけ、庭に面した部屋にさりげなく置いていた。コーヒーを呑み、リラックスして読むのに最適な、洗練された洋書ばかりだった。その選択にぼくは強く惹かれた。当時、厨房を託されていた「LONG TRACK FOODS」の馬詰佳香さんが「それなかなか佳い本ですよ」と表紙のウェイトレスのような、自然体の笑顔で勧めてくれた。interplantsの野口さんが手がけたインテリア、西海岸帰りの高須さんのセンス。そして馬詰さんのフード。あのときのレストハウスは幸福の中心に自分が居ると信じられる空間だったと、淡くせつない想いで胸がいっぱいになる。


『The New Brooklyn Cook Book』はマンハッタンを取材した際、ローワーイーストサイド区画からイーストリバーを渡り、歩いて行ったブルックリン・ウィリアムズバーグの「MAST BROTHERS」店内で見かけたレストランガイド。倉庫のような空間を徹底した美意識をもって活用した超人気のチョコレート店。最高にクールな女性スタッフに店内の撮影を打診すると「もちろん、ありがとう!」と、マンハッタン側でもたびたび耳にした、余裕の大人対応に、ニューヨーカーはなんて格好いいんだと痺れた。クールだけど、やさしい。ぼくのニューヨークへの好印象は心にずっと留まっている。


『ALEXANDER CALDER AND HIS MAGICAL MOBILES』はどこで入手したのか記憶にない。イームズをはじめ、ミッドセンチュリーモダンに夢中だったころに、たぶん買ったのだろう。数年前ボストンのMITキャンパスを訪ねたとき、大学の敷地内に鎮座する、カルダーの巨大な彫刻作品を目にしたら、次の取材予定が詰まっているというのに時を忘れて見惚れた。そんなふうに、熱しやすく冷めやすい自身の嗜好・興味を象徴する一冊に南伊豆に暮らすフランス人が目を留めてくれたことが嬉しい。さまざまな人の心を旅する本。

SIGMA DP3 MERRILL 75mm