2018年7月15日日曜日

french toast



以前、マンハッタンを取材したとき、ロウアーイーストサイドの「SHOPSIN」を訪ね、食事しなかったことを今も後悔している。ケニーショップシンさんが創作する気取らぬ、独自の料理をいろいろ味わいたかった。



ウイットがふんだんに盛りこまれたレシピ本を開くと、ニューヨークでしか味わえない一皿が次々と目に浮かんでくる。写真映えはしないが、どれもがきっと抜群に旨いに違いないと喉が鳴る。たとえば、フレンチトースト。食材の選択から焼き加減までこと細かに哲学が綴られている。伊丹十三の文章に通じる、揺るぎない自信が溢れている。Martin’sポテトブレッドや、Fox's U-Betのバニラシロップなど現地スーパーでは当たり前に売っている食材を指定する執心が可笑しい。身近なものを使うことを大事にしているのだろう。



おいしくなるポイントは最高の食材の選択とは違うところにあるという。茶色の焦げは中央あたりに生じること。フライ返しなど調理器具にも確固とした嗜好がある。ときに笑いを誘いながら、こうでなければならないという断言が痛快だ。思わず休日にポテトブレッド以外のレシピをなぞってつくると、今まで食べたことのないフレンチトーストを味わえた。この一冊をときどきめくりながら、僕はマンハッタン再訪を夢見ている。

SIGMA DP3 MERRILL