20数年前、シーカヤック専門誌を制作したとき、お世話になった風の旅行社主催のツアーに参加。埼玉県唯一の村、東秩父村を日本人唯一のチベット医・小川 康さん、「東秩父 野草に親しむ会」のメンバーと歩く。スタート地点はバスの終点、白石車庫そばの食堂。周辺で採れた食材でつくる家庭料理は地元の人によれば、とてもおいしいらしい。
ローカルの石垣。野趣に目が惹かれる。
大黒天を祀る。素朴な佇まいが佳い。
小屋と老人と巨大岩。ここで映画を撮れるね。
荒川の源流となる、清らかな小川が流れる。下流は和紙の里。
地域に暮らし、植物を愛で、活かす女性たちが道端の花について穏やかに教えてくれる。
「これは臭木の実。ブルーがなんとも言えず綺麗になるの」
「苧麻(カラムシ)をこうしてポンと叩くと大きな音が出るの。びっくりするでしょ」
幻想的なパープル。夢のように咲き誇る。
「これは菊芋っていうの」
「まぁ、なんてかわいいのかしら。ホオズキは鬼灯って書くのよね」
いろいろな色が次々と目に入る。天国とはこういう場所なのだろうか。
散策を終え、小川 康さんによるワークショップが始まる。座学のあと、地域の植物でつくった手料理をふるまわれ、滋味に感激。豊かな食生活に憧れる。そして、午後は薬草の紫根と当帰、蜜蝋、胡麻油、ラードという東秩父で採れる素材で「森の薬」をつくる。
紫は高貴な色。そこに深い意味がある。
紫雲膏(しうんこう)の出来上がり。塗ると、血流が良くなり、治癒力が早まるといわれている。実際に効くかどうかは個人差があることを前提にしつつ、自分の場合は3日前から痛んでいた腕に塗ったら、翌朝には見事に鎮められていた。
コンビニもゴルフ場もない埼玉の桃源郷へは東武・小川町駅からイーグルバスでのアクセスが唯一の公共交通手段。所要約40分、片道運賃640円。一般にいう便利から距離を置くことがいにしえの風習や景色を留める条件になるのだろうか。感慨深い旅になった。
LEICA M-E