酒場でひとりで呑むのが苦手だ。賑わう店では寂しさが募り、自分の居場所ではないと退散したくなる。そんな僕でもここならと思うのが築地場外市場の「酒美土場」。身体に優しいワイン、日本酒、食材を扱う小さなショップ。スルスル呑める自然派ワインのなかでも、複雑な柑橘系の味わいが特徴的なオレンジワインが充実している。木曜日以降に設けられているバータイムが広く知られていないのか、目下のところ夜は空いている。そのひっそりした佇まいが自分には心地よく、楽な気持ちでふらっと立ち寄れる。実家の佃島に泊まる晩はグラス一杯だけ呑み、ほろ酔い気分で隅田川を渡り、歩いて帰る。
訪問2回目のこの晩、僕の顔を覚えていてくれたスタッフのキナさんが選んでくれたのは「スモーキーなオレンジワイン」。イタリア、ピエモンテ州の「Ricci Rispetto」というワインで、ふくよかなフルーティさのなかに心地いい酸味がアクセントになっていて、前回呑んだ滋賀県産のオレンジワインよりも個性が強く、とても好みのおいしさだった。日本のものは果実ジュースのように口当たりがよく、そのぶん物足りなさも個人的に感じた。「ああ、あれはデラウェアという品種ですから、ちょっと甘いかな」とキナさん。そのひとことに深い領域を覗いた気になった。なるほど、ブドウの品種でワインの味わいはこうまで変わるのかと。専門的な蘊蓄が苦手な自分にはこれくらいの軽妙な言葉がすうっと沁み入り、関心を喚起させてくれる。一杯の学びを重ねたくて通ってしまいそうだ。
「Ricci Rispetto」はシャルドネとソーヴィニヨン・ブランという品種から醸造されているそうです
LEICA M-E . SUMMILUX50mm ASPH. f1.4