2019年11月1日金曜日

GOOD TOWN



ここ半世紀で縁のなかった土地に短期集中で通っている。南大塚はかつての花街。しっとりとした湿度や温もりに、歩いていて今も触れられる。庶民的で、個人店がメインの商店街がそこそこ賑わい、昭和の建築も残る。400年というレベルで積層した生活の痕跡が観て取れるこの街に、急速に惹かれている。



いい街には、佳い蕎麦屋と和菓子店があるというのが僕の個人的な説。気取らず、オープンで、楽に過ごせて、工夫した独自のものを味わえる。そんな2軒に出合えたから、南大塚がとても好きになった。



手打ちそば 小倉庵」は雑誌「RiCE」の蕎麦特集で存在を知った。たまたま、近くで仕事の打ち合わせがあったので昼に寄ったのだが、手打ち蕎麦のおいしさはもちろん、空間の穏やかな雰囲気に魅了された。それは地域の客と店員の柔らかな気質が生み出すもの。



先日は夜に暖簾をくぐり、手打ち蕎麦とカレー丼のセットをいただき、お腹が幸せに満たされる。蕎麦湯で余韻に浸りながら、時間のゆとりがあるときに再訪し、冷酒と酒に合う肴セットでゆっくりなごもうとぼんやり願った。支払いがSUICA対応なのが自分には至極便利。クラシックな佇まいだが、ありそうでない変わったメニューも、ひとりで楽に飲食できる雰囲気も、体制も、時流に寄り添う商いの方向がじつに素晴らしいと思う。



東池袋駅まで都電の線路沿いを歩いて帰る。雨上がりの街に都電が行き交うシーンは心に訴える情緒がある。都電が走る街って佳いなぁ。都内でありながら、どこか遠い国を旅している気分になれる。



利便性と懐かしい景観が同居する東池袋と南大塚。歩行者のリズムも明らかに悠然としているから、移動がとても楽。生活する外国人の多さも、その印象を強めているのかもしれない。僕の実家、佃島周辺の中央区界隈も30年前まではこんなペースで人がゆったりと動いていたのに、いつからか殺伐としたものに激変してしまった。誰がそんな街にしてしまったのだろう。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4