8年前の11月末にサンクスギビングデーが迫る、凍てついた寒さのマンハッタンでバレエを鑑賞。ブロードウェイ通りのリンカーンセンターで毎冬にニューヨーク・シティ・バレエ団が演じる定番演目『ナッツクラッカー(くるみ割り人形)』。チャイコフスキーの聴き慣れた音楽、一流ダンサーの舞い、ポップな装いと洗練に心酔して、眼にできた至福を深い余韻とともに悦んだ。
日本に戻ってから同時期にこのバレエ団の舞台と裏側を一カ月かけて撮影した写真集が制作され、ドイツで印刷、刊行に至ったことを知った。ポートレートを得意にし、セレブリティの撮影で実績を重ねてきたスイス出身の写真家ヘンリー・ルートワイラーの作品『Ballet』(シュタイデル)。当時日本では未発売でamazon usまたはニューヨークの書店からの購入を検討しているうちに初版が完売。古書も手が届かない値段に高騰。入手困難なレアブックスになってしまった。諦めていたその一冊の第二版が最近になって日本でも売値を比較できるほど流通し始めて驚き、定価の1/3ほど、最安値のものを買い、暗所での躍動を捉えたブレ描写に魅せられ、悦に入った。
ヘンリーはライカの35mmカメラのみで舞台の面と裏を撮ったという。ライカファンとしてはどのカメラを選択したのか気になり、彼の膨大なインスタグラム投稿を遡ると機材紹介を見つけた。フィルムとデジタルの両方を用いているようだ。後者はライカM(type240)、レンズはズミクロンの35mmと50mm、エルマリート24mmのほか広角系はライカRレンズのスーパーアンギュロン21mmを純正アダプター経由でライカMに装着。柔軟に実用性を熟慮する、自分の好きなタイプの独特なライカ使いだとわかり、親しみを覚えた。
モノクロフィルムはコダックのトライXがお気に入りみたい。コダック好きとして嬉しく思うし、家にストックしている一本を自分も装填したくなる。
人だけでなく、物への関心も強いのだろう。数多く撮ってきた物の嗜好にも共感。マイBRAUNのスナップを並べてみたりして(笑)。
2017年に日本で初個展を開いた神宮前のギャラリー近くでのスナップにも眼が留まる。美容院前に停まるアメリカンな一台。80年代製と思われる瀟洒なジープ・ワゴナー。ぼくも前を通るたびに撮らずにはいられない佇まい、造形物。ヘンリーとぼく自身の興味は通じる部分が多々あるのかもしれない。そんな写真家、しかも過去の功績が讃えられる伝説ではなく、現役、旬の表現者。いっそうの活躍を見つめ、追いかけていきたい。
SIGMA DP3 MERRILL75mm / f2.8
LEICA M5 , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4
KODAK PORTRA400