10数年前、京都の路地を歩いて眼に飛び込んできた町家の植栽に度肝を抜いた。軒先、数10センチの地面から芭蕉が根を下ろし、濃緑の葉を茂らせていた。古都の先入観を覆すトロピカルな情景。その大きなギャップに惹かれ、自宅の小さな前庭も南国カラーの植物で明るく彩ってみたくなった。
葉山に戻って近所の「カノムパン」店頭に生える芭蕉を株分けさせてもらい、自宅の南面に植えたら光と風の具合が良かったのか、地下茎を伸ばしながらそこかしから茎が伸び、たちまち温帯から亜熱帯なエクステリアへと変化を遂げた。
芦名の南国植物栽培家である映画配給会社社長の根岸さんからは黄斑月桃や琉球月桃、ソラナムなどを譲り受け、どれもがすくすくと育ったのは葉山一色エリア、海岸近くの気候風土とそれだけマッチしたということなのだろう。何しろ自分は何も手をかけず、ただ放置しているだけなのだから。それらの植物の葉が深まる秋のさなかに最密になった。南西からの潮風でざわざわと揺れるたびに葉を透過する点光が室内に差し、ゆらめくさまに魅了される。秋雨前線が北上するまでのここ一週間は夢心地の楽園景色を愉しんだ。
LEICA M-E , MACRO ELMAR 90mm / f4