2021年1月19日火曜日

千倉の灯台



安西水丸さんのイラストと文章でしばしば登場する南房総、千倉。ひと気のない海辺に吹く潮風、岩礁を洗う白波、揺れる小舟。そして岬に立つ瀟洒な灯台。外洋に面した荒れた海と、ひっそり佇む灯台との対比、クールで乾いた空気感にずっと惹かれていた。安西カオリさんが父と過ごした海への心象風景を綴った『さざ波の記憶』(新潮社)を読んで、たまらず千倉を目指した。書物から受けたイメージと実像が重なるのは静寂が極まる時季に違いない。そう思いこみ、真冬に館山から白浜を経てバイクで海岸沿いの道をひた走った。



旅を計画したとき、ぜひとも訪ねたい場所があった。千倉町白間の岩礁に立つ安房白浜港灯台である。視界に孤高の姿が入ると、水丸ワールドに溶けいっていくような感覚に胸が熱くなり、長年の念願を叶えた悦びが湧き上がってきた。



しばらく見入ったあと足元を見ると、あたりにウミガメの骨が散乱していることに気づいた。太平洋をはるばると回遊し、たどり着いた岩礁で尽きた生命の無常。風景に白骨が馴染み、荒涼とした印象がいっそう深まり、記憶に刻まれた。

LEICA M-E, SUMMILUX 50mm  ASPH. / f1.4