2015年5月29日金曜日

イヌイット・アートに心奪われて


同じ町内に暮らす古物商、大久保忠浩さんの倉庫に入った途端、イヌイット・アートが目に飛びこんできたとき腰を抜かしそうになりました。ずっと探し求めていたものが、まるで導かれるようにして、いきなり目の前に差し出された気がしたからです。そんな心持ちになったのには背景があります。
20数年ほど前のこと。極北の地カナダ、バフィン島に暮らすイヌイットの文化、とりわけ狩猟の道具であるウミアック(シーカヤックの原型)に魅了され、ユーラシア大陸からアリューシャン列島づたいに北米へ移動してきた、はるかなる旅路に想いを馳せながら、シーカヤックの精神性やルーツをたどる書籍、雑誌を制作しました。


なぜ、そこまでイヌイットへの憧れが募り、傾倒していったのか、理由はよくわかりません。しかし、カヤックのコックピットに身をくぐらせて海中に半身を潜らせ、、波のゆらぎにまかせて海面を漂っていると、海流、海風、頭上を舞う鳥、そういった自然の営みと一体になり、心が澄みわたっていきます。その状態で思い浮かべたのは、北の海でカヤックを操り、狩猟するイヌイットの姿でした。そのビジョンが突如、心象風景として現れたとき、自分の根源をたどるような不思議な感覚に包まれたのです。自分の祖先とDNAレベルで直結した瞬間だったのかもしれません。


その後、カヤックで海に出ることもなくなり、彼らのことも忘却していたのですが、近代のイヌイットが現金収入のため、受け継いできたプリミティブな感覚をもとに、石や海獣・海洋哺乳類の骨、牙などを彫り、崇敬するものをかたちにしていることを、大久保さんと出会い知りました。そしてはじめてそのアートに触れたとき、かつての熱い心が呼び覚まされていくのを感じたのです。こうした造形物はそもそも、祈りや日々に愉しみをもたらすよう、自分のために創作したものでしょう。そのピュアな心の働きが生む、装飾を排したかたちに魅せられます。日本ではイヌイットのアートへの評価が低いうえに、存在があまり知られていないようですが、カナダや北米には専門的に収集、展示する博物館もあります。


大好きなマンハッタンのMETもコレクションしているようですが、数年前の訪問時には展示されていなかった。あのウイットに富むセンスをもつ学芸員たちが、どのように並べるのか見てみたい!

というわけで、イヌイット熱がにわかに再燃して、インターネットでいろいろ楽しくリサーチしています。20数年前は、これほどまでさまざまな情報は入手できなかったなぁ。

LEICA M-E+SUMMILUX50mm , HASSELBLAD500CM+PLANAR C 80mm