公共のお堅い空間であるという先入観、コンパクトな展示だったという口コミから、あまり過剰な期待を抱かないで向かった日比谷図書文化館での「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」。ところが~ん、会場に足を踏み入れたとたん、ただならぬ濃度の展示に瞠目し、腰を抜かしそうになりました。斬新なデザイン、用紙の選択と組み合わせ、文字ひとつひとつへの目の配りよう。「狂気」とも比喩される、細部にまで行き渡る情念が凄すぎる。写植からDTPへの移行もスムーズに受け入れながらも、祖父江さん自分でつくられた新書体も含めて、文字のかたち、雰囲気や配置に見せる執念ぶりは少しも変わっていない。それは写植時代にみられた職人アートディレクターの気質そのものであり、その気力を普遍的にキープしていることに、驚嘆します。こんなブックデザイナーは世界的にも類をみないのでは? それぞれの展示コーナーで息を呑み、目を奪われました。
スゴイ仕事を俯瞰するように全体を眺め、興奮しすぎた頭を公園内で休めます。この池は数寄屋橋・泰明小学校時代の写真部活動で撮影した場所。モノクロプリントを初めて引き伸ばし、額装までした写真は、この池の水が凍結する真冬のシーンでした。
園内モバイルハウスそばに佇む猫ちゃん。目つきは野性的だけど、近づいても逃げないのは、ハウス住人との適度な共生関係を築いているからでしょう。
テニスコート周囲には菜の花が咲き誇る。こんな豊かなs緑地が官庁街のそばにある。
クライアントである出版社がアイデアの実現のためにコストや製作時間などの数々の難問をしっかり受け止めてくれたとき、理想の祖父江スタイルが完結。家の本棚にあったのは
「黒黴」マガジンハウス1998年刊、著/水島 裕子 (文)
原稿用紙の手書き文字を背景に敷く。見た目のインパクトからページをめくるたびに高揚した気分が沸いてきます。単に奇をてらっているわけではない。本質である文章の読みやすさにもまた心を砕いている。書体、字間、行間の熟慮に書物への情愛の深さが伝わります。これぞ祖父江スタイルの真髄。
水島さんは、愛くるしい表情とは裏腹に、淫靡な言葉をさらりと口にしちゃう過激なエッチさが最高でした。エロくて聡明な女性。彼女は写真に関心が強く、写真展めぐりも趣味のひとつ。三好和義さんの個展会場に現れたとき、彼女との記念写真を三好さんにライカで撮ってもらったのは歓喜感激の体験だったなぁ。
- 「海藻 海の森の不思議」LIXIL出版2013年刊
厚みの異なる複数の用紙を製本した、とんでもなく手間とコストをかけた入魂の一冊。
昔の学術本みたいなムードも漂わせている。執筆陣も豪華。海藻おしばの第一人者、野田三千代さんをはじめ、南三陸町の海藻学者・横浜康継さん、葉山を中心に相模湾の海藻を撮り続けている水中写真家・鍵井靖章さんなど知人も原稿、助言、写真を寄せている。INAX出版時代から続く、建築・工藝・自然科学のシリーズ本のなかでも秀逸な一冊。そう感じさせるのも祖父江さんの力によるところが大きいのでしょう。
LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH.
SIGMA DP3 MERRILL (BOOK)