育った佃島から取材先の深川・古石場まで歩いて行く。まずは隅田川の河口を渡る。潮汐次第では流速がとても速い。この水域に落ちたらまず助からないと言われていた。
昼間に相生橋を歩くのは久しぶり。東京湾側を見ると、かつての貯木場が目に入る。子供の頃は、大木がたくさん浮いていた。
橋のたもとの公園。満潮になると内側の池が海水混じりの淡水で満たされる。この水辺には甘い思い出があり、眺めるたびにせつない想いがこみあげてくる。公園前の浅い水底、今は屋形船が停留するあたりには伝説がある。GHQによる収奪を逃れるべく、大蔵省が黄金の延棒を大量に沈めたという。子供のころ、潜って真偽を確かめる夢を何度もみた。
川の対岸は越中島。その水辺に鎮座する明治丸。実家の窓からも帆船の勇姿が見える。外洋を航海する船を日常的に見ることで遠い海への憧れを募らせていた。このあたりには戦後、米軍が駐留していた。祖父は趣味で持っていた小舟を軍人に盗まれたという。
明治丸を保存・管理するのは旧・東京商船大学。清澄通り近くには明治の洋風建築が並んでいる。1903年に建てられた天文観測所であると、僕はつい先日知った。
夜になると、このモダンな外観が暗闇のなかでうっすらと浮かぶ。時が止まったような空間感に魅せられながらも、何かが潜んでいるようで怖くもあった。半世紀前の東京が残る奇跡。破壊と新生を繰り返すこの都市では奇跡と言っても大げさではないだろう。モダンな情趣を留めるこのキャンパスが、どうか3年後も変わらぬようにと願うばかり。
SIGMA DP3 MERRILL 75mm f/2.8





