未だ自身のイタリアンブームは去らず、ふと棚上のコーヒー器具マキネッタを下ろす。20年前に購入したビアレッティ「モカエキスプレス」。火にかけて3分ほどで濃厚なモカコーヒーを抽出する。ふだんは半日ほどかけて飲む豆量の液体を早朝にぐいっと流しこむのだから、ぼんやりした頭が一気に覚醒。イタリア人のように砂糖を入れないのが好みだから苦い薬のような味わいだ。
この器具を簡易エスプレッソマシーンだとか、このイタリアンコーヒーの一種をエスプレッソなどと呼称してはいけない。モカコーヒーとエスプレッソは別の飲み物なのだ、と編集者である自分に言い聞かせる。その一般に広まっている誤解は、英国車ミニを別物のクーパーモデルと混同して一緒くたに、ミニクーパーと口にしてしまうのと同じくらい恥ずかしく、格好悪い。
南イタリアのスーパーで飲んだのは、まぎれもないエスプレッソ。なんでもスローリィなイタリア人がエスプレッソのオーダーを受け、自慢っぽい高圧マシーンを操る動きだけは恐ろしく素早い(笑)。
1ユーロの一杯、素晴らしい旨さだった。おじさんがちゃんとガラスのカップに注ぐぞと、自慢気だった表情と仕草から、イタリア人のエスプレッソへの愛着とプライドを想像した。
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