2015年7月7日火曜日

大皿に盛る



民藝の伝統を今につなげたのは、大分県小鹿田焼の功績が大きい。恩師が常々、そう語り、とりわけ陶工、坂本茂木さんが民藝のありよう、そして自身にとってもかけがいのない存在だったと繰り返し説いていました。美しい手仕事を伝える連載記事では4回にわたり茂木さんへの想いを述べられていました。工人としては引退してしまった茂木さんですが、飯碗、壺、皿、ピッチャーなど、高い技術と類まれな芸術性からつくられた良品がぼくの暮らしを健やかに彩ってくれています。



昔ながらの製法を守り、文様、技法を継承する民窯。多様な製品を展開していますが、大皿はふつうの家庭では活躍の場が少なく、もっぱら居間に飾って鑑賞するにとどまる人も多いと思われます。それも民藝の愉しみではありますが、恩師は機会があると、この大皿でおいしい手料理をふるまってくれました。ためらうことなく立派な器を使える。これも暮らしに寄り添う小鹿田焼のよさ。優れた手仕事の良品を使う嬉しさ、感動を恩師を偲ぶ会で、懐かしんでいました。




中華料理は恩師の大好きなジャンル。とくに、神奈川県大磯「
媽媽厨房」龐(パン)さんがつくる、豚ばら肉土鍋飯、埼玉県伊奈町「龍の子」尾高さんの四川風パラパラ炒飯を語るときの恍惚とした顔は目に焼き付いています。お別れのもてなしも好物の中華料理。中華街近くという立地もあってか、どれもおいしい。大皿からすくうとよりよい味に感じます。小鹿田焼の若き陶工が結婚されたとき、中華街でパーティを催したこともある。店選びの下見に同行したとき、2時間で何軒もはしごしながら、ベストの料理と空間を探究する恩師の強い気持ち、誠実さに心打たれました。あれほどの活力と心根の優しさを兼ね備えた魅力的な人に、ぼくはこれから出会うことができるのだろうか。

LEICA M-E SUMMILUX50mm