2016年5月25日水曜日

脚絆と走り旅



江戸庶民がこぞって愉しんだ物見遊山の旅に心から憧れています。非日常世界へ飛び込む不安と開放感。行き倒れのリスクを覚悟しながら、幽山深谷の急峻な峠を越え、木洩れ日の美しい杉や松並木の街道を進む。途中、茶屋で名物を味わい、特産品の土産を求め、たとえば江戸から伊勢まで寄り道しながら往復30~50日間かけて歩く旅。日差しや雨をガードする笠、足を傷めないベストシューズと再評価されるベアフットシューズの原型である草履、小さく畳めるパッカブルな合羽、服も行く先で洗濯しつつ最小限の荷物で軽快さを追求。その旅のスタイルと、今以上に多様な地域文化や人情、豊かな自然に触れられた状況が羨ましくて仕方がありません。数少ない装備品のなかでも、惹かれるのは藍染した脚絆。脛を主に護るだけでなく、下肢を締めることでうっ血を防ぎ、長距離の歩行でも疲労感を軽減する効果があるとされています。古物商「KIHACHI」さんに、この脚絆の古いものを分けていただきました。上部を紐で結び、サイドを複数のこはぜで留める、いわゆる江戸脚絆。明治頃のものでしょうか、使いこまれた藍のかすれ加減が風情あります。




飾って眺めるのもいいのですが、実用品ですので使います。鎌倉「もやい工藝」まで撮影用の皿を届ける用事があったので、さっそく葉山から走って向かう両足に装着。ぼくの下肢は異様に太いので(もともと細足用の製品だったようで)、まとうのはなかなかの難儀。webでHOW TO記事を見つけたのですが、この方法を自分なりにアレンジすると要領をすぐに得ることができました。ふだんのジョギングでは、化学繊維のランニングタイツを着けているのですが、素材が肌に合わないのか、汗をかくと肌が荒れたり、かゆくなることがあります。しかし、この綿の脚絆は葉山~鎌倉の往復道中、素材の通気性が優れるためか常に心地よい。自然素材の風合い、藍の美しさ。触感、視覚合わせて、ハイテクな現代製品より、はるかに高い機能を誇っていると感じました。もちろん、疲労軽減の効力もあったと個人的には実感。脚絆ひとつとっても、江戸時代の日本人は究極的な道具を持ち、スタイルを完成させていたんだなと理解できます。江戸時代に生まれたかった。そして、街道をひた走る飛脚、あるいは、幕府や藩の縛りをうっちゃり、旅しながら日記やガイドをつくる漂白人になりたかった。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH.