2016年7月16日土曜日

茅場で涼む



じりじりとアスファルトの道を焦がすように照りつける夏の太陽。お江戸の正午あたりは、海と山が寄り添う葉山と比べると数段、体感温度が高い。日本橋方面に用事があったのですが、これはたまらんと水辺の涼をもとめ、隅田川とつながる運河沿いのルートを歩きます。八丁堀から湿地帯を埋め立てた霊岸島を経て、亀島川のほとりへ。せっかくの気持ちいい空間なのに、その水辺はほとんどうまく活用されていない。法的な問題もあるのでしょうが、放ったらかしになった水際は葦で覆われ、いにしえの植物DNAがひそやかに復活を遂げているのがおもしろい。



かつては屋根材となる茅が茂っていたあたりには、証券会社をはじめお堅い仕事の会社が立ち並ぶ。江戸が築かれたころからは景色は一変したものの、運河がはりめぐらされ、江戸のヴェニスといわれた面影を留めています。平穏と流れる運河の風情には強く惹かれるものがあり、その水辺で日がな水面をぼんやり眺めて暮らせたらさぞ心地いいだろうなぁと夢想。軒先に舟を浮かべて、水遊びに出かけるのもいい。ぼくが生まれるまえ、佃島の実家には庭に船着き場があり、祖父は自分のボートで隅田川へ漕ぎ出ていた。当時は現在のような護岸壁はなく、すうっと川のなかへ入っていけたし、夏はみんな川で泳いでいたという。江戸時代まで遡らなくても、少し前の日本人は享楽的な暮らしをごくふつうに享受していたんだなぁ。




茅場の水辺に明治時代から立つ「田川堂」でひとやすみ。外光にほんのりと照らされる土間であんみつをいただきます。




実家の土間みたいな空間に既視感を覚える。クーラーはないけれど、外から室内に吹きぬけていく風だけで汗がひいていきます。真夏もクーラーいらずで涼しく過ごせた、一昔まえの東京の木造民家。人工的で強制冷却の涼とは異質の快楽にしばし溺れ、身体の奥底に眠っていた懐かしい感覚が蘇ってきました。

LEICA M-E , MACRO ELMAR90mm/f4