2016年7月6日水曜日

北欧のワルツ



先日たまたまイマジカBSでスウェーデンのジャズシンガー、モニカ・ゼタールンドの半生を描いた映画ストックホルムでワルツを(原題『Monica Z』)を観て、映像の洗練された美しさとともにモニカの歌声に惚れ直しました。彼女の存在と魅力を教えてくれたのは、10数年前は表参道、紀伊国屋の裏側にあったヴィンテージ・オーディオショップ「and up」の赤羽根店長と石井社長。モニカ全盛期の1960年代当時につくられた真空管ラジオで、その歌声を聴くと、なんともいい雰囲気なんですよと、実際に視聴させていただき、心を打ちぬかれたのでした。




当時の店内には、1961年に工業デザインの重鎮ディーター・ラムスがデザインしたBRAUNの真空管ラジオRT-20が2台、ホワイトとモスグリーンが並ぶという、今やかなりレアな状況。このチャンスを逃しては!と、ホワイトをぼくが衝動買いし、モスグリーンは鎌倉在住の方のもとへ嫁いでいったのでした。石井社長はiPod 1stモデルからFMトランスミッターを介してRT20にデジタル音源を飛ばし、真空管により、角のたった音がまろやかに変質していく実際を、デモンストレーションしてくれたのでした。モニカの映画を観て、久しぶりにスウェーデン語で唄われた「ワルツ・フォー・デヴィ」を聴きたくなってMacbook AirからRT20に飛ばす。小さく私的な空間を満たす真空管からのささやくような音は豊かな温かみを帯び、無性にお酒を呑みたくなります。艶やかな声とビル・エヴァンスの洒脱な演奏に心酔し、上質なスコッチあるいはブランデーを大ぶりなグラスで、ストレートで。その音がオーディオマニアが追究する最上のクオリティとはいえないのでしょうが、雑音混じりの素朴な音がなぜか気持ちよく、官能的。かの坂本龍一教授も「and up」で真空管ラジオを買いあさられていたようなので、たぶんそれは心の奥深くに訴求する特別な音なのでしょう。

真空管のカーステレオを搭載するメルセデスのオールドモデルを愉しんでいた洒落者の石井社長。元気かな。渋谷区内でショップ自体は持続されているようなので、今度覗きに行こう。

追記
iPodを直接RT20につなぐ改造を請け負う職人が横浜にいるらしい。この人物にも接触せねば。

LEICA M-E , MACRO ELMAR90mm/f4