2016年12月30日金曜日

愛読本を包む


鎌倉の古書店「ウサギノフクシュウ」の選書は素晴らしい。内容はもちろん、装丁の吟味からも店主オグリさんの美意識がしっかり感じ取れる。古書だから、それなりの経年変化はやむなしだけど、隅々まで手をかけて、目を配り、整えた本が揃う。どれも、棚に収めて眺め、繰り返し読み続けたいと思える。オグリさんの「熱」が伝わってくる。しかも、それらが適切な価格に設定されているのも嬉しい。また、暮らし、カルチャー、アート、旅など、自身の「好き」というフィルターを漉して、きちんと選び抜いた本を扱っている。選択する眼と心に惹かれるから、ぼくはオグリさんの古書店が大好きなのだ。


オグリさんは書籍を保護するためOPPフィルムシートで、ていねいに表紙をカバーしている。一冊、一冊、愛情をこめているのが細部から伺える。たとえば、カバーのない本を覆う場合、内側の天地・折り返し部に斜めの切りこみが入っている。めくれないようにする工夫だとか。試行を重ね、行き着いた創意。こうした洞察と思考のすえ、かたちになったアイデアを目にすると賞賛したくなる。同時に、アイデアをちゃっかり拝借してしまう。


オグリさんが業務で日々用いているOPPシートを教えてもらう。シートの選択ひとつにもノウハウと経験がひそんでいるから。「タカ印 OPPロール 35-350」という商品。amazonでも買える。静電気が生じない特殊な素材でホコリを寄せ付けない。それに、薄いのに強度があり、軽く、透明度が高いのも美点。グラシン・ペーパーと違って、美しい装丁を楽しみつつ、品良く保護できる機能ぶりが優秀。手触りがよいし、光沢感がちょっとした高揚感をもたらす。古書が薄化粧をして、清らかに美しく活き帰るように思えるのです。


この商品は縦500mmというサイズも重要なんです、ともオグリさんは言っていた。家の前の美術館図書室でいただいた、古い展覧会ポスターで型をつくると、理由は明白に。ほとんどの書籍サイズに500mmという幅が絶妙にフィットするのです。天地の折り返し幅を微調整するだけで作業が済む。OPPシートの加工が仕事になっているプロの英知と、唸る。


早速、背表紙の剥離が進み、傷みが顕著になってきた古書を自身で包む。1971年トロント大学出版局による発刊。これからもずっと読んでいきたい、北方民族イヌイットのスカルプチュア(彫刻)・コレクション本。一枚、ごく薄いシートがかかるだけで心象が変わる。表紙のヤケ、ざらざらと経年変化したマットな用紙。これらが息を吹き返すよう。糸かがりの製本をほどき、ハードカバーに装丁し直すとか、手のこんだ修繕も検討したけれど、最小限の保護がすっきりと心を治めてくれる。「自然にゆだね、そのまま持ち続けるというのも、古書との付き合いの選択肢にあります」というオグリさんの一言が頭に浮かぶ。そんな深い含蓄、見識、美の感覚にずっと触れていたい。そう願う、2016年の師走。

LEICA M-E , MACRO-ELMAR90mm