2017年2月1日水曜日

短波ラジオへの追想


たいていのことはすぐに飽きてしまって、それまでの熱情がとっさに醒め、忘却してしまう。そんな人生を過ごしてきました。短期超集中タイプの性格はたぶん、これからも不変。

中学生の3年間にのめりこんだのはBCL(Broad Casting Lisner)。短波放送を聴ける特別なラジオで、世界中の放送局にチューニング。聴いた内容をレポートにまとめ、放送局へ郵送。返礼として送られてくる、ご当地写真入りなどのベリーカード(放送局が放送をしたことを聴取者に証明する受信確認証)の収集に傾倒していた。チューニングの難易度が高いのは、日本から遠く離れた国、たとえば中米の小国やアフリカ奥地の小電力ラジオ局。深夜から早朝にかけての時間帯は、微弱な電波をつかまえやすくなるからと、陸上部の長距離走練習で疲れきった体を奮い立たせて、徹夜して耳を澄ます毎日。睡眠時間がミニマルな当時の持久力、体力が今は眩いほど懐かしい。

辞書片手に稚拙な英語表現で綴った手紙をオーストラリアやニュージーランドの国内向け番組で紹介されたことも。採用されやすいようにと、文章には姑息にも富士や桜の絵を描き添えていた。ラジオ・ハバナ・キューバからはカストロ議長をはじめ歴代の指導者プロマイドが贈られた。中東の反政府勢力が非合法で運営するコーラン説法の地下放送局からは真摯な手紙が返ってきた。怠惰といわれる国民性のイタリアRAIからは、こまめに番組表が郵送され続けている。世の真理を深く考える放送局とのやりとり。世界は、かくも多様なのかと、感動し、大国のプロヴァガンダを疑い、それぞれの国の真実をじっさいに見聞きしたいと、現地への旅を夢みたもの。



そうした熱い記憶が、解体間近な銀座ソニービルでの「It's a Sony展」で鮮明にフラッシュバック。このビルの特徴であるステップフロアごと、年代別に展示された過去のアーカイブ製品群のどれもに目が潤む。とりわけ、ソニー黄金期ともいえる1970~80年代製のトランジスタラジオには、さまざまな想いが去来しちゃう。


地球の成層圏を行き交う電波の自由さ、拡がりに関心を抱くきっかけはこの1台。ソニー製品好き、つまりなハイカラな物好きな祖父が愛用していた別称「ニュースキャスター」のICF-7800。操作部とスピーカーを分離させ、折り畳むとコンパクトになる造形。小さな筐体なのに、スイッチ類が多くて、本格的なツール感が凝縮するモダンなデザインに胸を熱くしたなぁ。

当時、欲しくてたまらなかったBCLラジオはソニーの「スカイセンサーICF-5900」。しかし、高くて手が出なくて、ナショナルの「クーガー2200(RF-2200)」を選択。指先の繊細な感覚で周波数ダイヤルをチューニングする必要があるぶん、レアなラジオ局とつながったときの悦びも大きかった。その後、デジタルチューニング可能なBCLラジオの最上級機種「ICF-6800」を手に入れたものの、スムーズに微細な周波数を同調できる安易さに興ざめ。同時にBCLへの関心も霧散。困難があるから、人はひとつの道を追究するモチベーションを保てる。ソニー製品を通じて、ものごとの真理を教わったのでした。

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