2017年2月11日土曜日

鎌倉・佐助のトンネル


鎌倉駅から自認・世界一のセレクトショップ「もやい工藝」へ至近ルートで向かうと、店のある佐助の谷戸を貫くトンネルをくぐることになります。その手前には多湿な地域を象徴する、シダが繁茂。欲しくてたまらないものに、もうすぐ出合える。高揚感がマックスの状態ですと、真冬も濃緑をたたえるシダの生命力に対して眼が敏感になるようで、歩速をゆるめて見入ってしまいます。シダで覆われる壁が左右から迫る情景には、バリ島ウブドでも遭遇しました。谷戸に流れる川のそばに立つホテルIBAHに滞在していたとき、たまたま近くに東ティモールの民具など、洗練の美意識をもって風情豊かな物を選ぶ骨董店を見つけて、連日通いました。その店まで歩く道周囲のムードが、佐助の谷戸に酷似していたのでした。全部物を買い占めたくなるほど魅力的な品揃えだった骨董店。自分の心をとらえる空間は周辺の環境も似通うのでしょうか。偶然の一致は、必然の導きなのかもしれないと、いまだに神妙な気持ちに包まれています。


佐助のトンネルといえば、小学生の時分にまでさかのぼる愉快な記憶があります。鎌倉への修学旅行。団体行動が苦手だった自分は、ひとりで街のあちこちを散策。事前に、興味がありそうな場所をリサーチしていたのですが、佐助は目指す場所の途上にある地域でした。神社仏閣や名所には無関心でしたから、老舗の和菓子店でも目指していたのだと思います。途中で、家へのアプローチがトンネルの家が現れ、驚いて奥を覗くとクラシックカーがずらり。どんな人が暮らしているのだろう。呆気にとられていたら、住人が手招きをして中に入れてくれたのでした。壮観なコレクションを賞賛すると、住人は「坊やが大人になったら1台譲ってあげるよ」と悠然とした笑みを浮かべていた。佐助、トンネル、クラシックカー。3つのおぼろけなキーワードを頼りに記憶をたぐると、もやい工藝近くの、このトンネルではないかと思うようになりました。憧れやときめき、いろいろな想いが去来する佐助詣で。心地よい思い出とともに、これからも足を運ぶことになるでしょう。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4