2017年3月14日火曜日

海上がりの硝子


波打ち際に近い海底で、砂に包まれて沈んでいた昭和初期の硝子瓶。約30~50年前まで、燃えないゴミを川や海の近くに廃棄していた。その遺物が気まぐれな波のはたらきである日突然、打ち上がる。半世紀弱の眠りから覚めたそれらの瓶の多くは化学反応を起こし、虹色にきらめいている。海上がりの「銀化瓶」の存在とメカニズムについて、海遊びの師匠である、北鎌倉在住のビーチコーマー山田 稔さんから教わった。以来、山田さんのホームグラウンド、鎌倉・材木座海岸や地元、葉山一色海岸で大潮の日、あるいは台風をはじめ大型の低気圧が海岸に接近した数日後、夢中になって目を凝らし、瓶を探し集めたものでした。しかし、いつものことながら自分の興味が続く期間は短く、しばらく忘却。それが、つい先日、ビー玉で外側表面に銀化現象が生じたレア個体(これがなぜ珍しいのかは、山田さんの解説をお読みください)を犬との散歩途中に見つけたことで、関心が再燃。きらめく様子がよく映えるよう暗い色の布を背景に、物撮りしてみました。


ヨーロッパの骨董商は土中から発掘されたローマ時代の銀化硝子を珍重。土のなかでは気の遠くなる時間を要する、この化学現象がなぜ海のなかでは、わずかな期間で起こりうるのか。山田さんは「海の恵み」と称し、いくつかの可能性を推察しつつ、謎に満ちた海の神秘性に心を遊ばせている。好奇心の幅と深さに敬服するのに加え、山田さんのそんなロマンティックなものごとのとらえように強く惹かれます。かつて人類の海中移住計画の実験に携わった「アクアノーツ」らしい思考。地球の7割を占める海のもつ力を、人類はほとんどを解明できていない。認識を改め、母なる自然にいっそう魅せられていくのです。

SIGMA DP3 MERRILL