2017年6月9日金曜日

編集長しだい


雑誌は記事を制作する編集者により、生き物のように変化する。とくに圧倒的に強い求心力をそなえる編集長が離れてしまうと、とたんに魂が抜けたように、誌面全体の魅力が褪せてしまうことがある。それは個人の、そして組織の事情として仕方ないものとしても、数号前から唯一の必買雑誌「TRANSIT」を買わなくなってしまった。仕事がらみで購入した最新号でスタッフの名前を列記する「奥付」を見て気づいた。誌面構成に惹かれなくなった理由は、リニューアルによる特集内容の変化と、編集長・加藤直徳さんが編集部を去ったことに起因するのだと。つい先日のことだった。


とても落胆しながら、きっと加藤さんなら新しい旅の雑誌づくりに着手しているにちがいないと、確信めいた直観が走り、TRANSIT時代に加藤さんがよくつぶやいていたTwitterで名前から検索すると、まさにBINGO!だった。TRANSITのアートディレクター尾原史和さんが営む事務所スープ・デザイン出版レーベルで「アトランティス」というトラベルカルチャー誌創刊の準備を進めているとのことだった。落胆から歓喜へ。尾原さんと加藤さんが、本当につくりたいものをつくる。その状況を想像するだけで心躍った。つぶやきによれば、TRANSIT離脱後に宝島社のムック本を手がけたという。その「魅惑のバンコク」はすでに版元品切れ。あわてて神保町の書店に駆けつけると、かろうじて数冊在庫していた(amazonでも現在は購入可)。こんなに興奮して雑誌を手に取り、開くのはいつ以来だろうか。はたして、ページをめくると、バンコクの妖しい熱を帯びた空気に触れるようなビジュアルに魅せられた。現地のリアルな情報も美しい誌面を保ちつつ、きちんと盛りこまれている。このセンスとバランス感覚は、TRANSITのベースとなった雑誌「NEUTRAL」の誌面により近い気がする。活き活きと躍動している加藤さんの仕事をリスペクトしつつ、今は新創刊誌のお目見えを心待ちにしている。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4
MACRO ELMAR90mm f/4