2017年6月11日日曜日

北斎Study


銀座のメゾンエルメスで開催中の「水の三部作2」。会場ではメキシコのアーティスト、A.クルズヴィエイガスさんが創作に影響を受けた本を手にとって読むことができる。建築雑誌をアート文化と融合した版元・エクスナレッジ黄金期のイサムノグチ本(13年前の発行)も秀逸だけど、文庫サイズの「北斎漫画2」を開いて、しばらくその場から動けなくなった。全国に200人の弟子がいたという北斎。彼らのために、絵の手本をさまざまなモチーフで膨大に描き、印刷して配っていた。自由な線、ユーモア、巧さ、量。超人的な表現を鬼才アートディレクター祖父江慎さんが、あたかも江戸本のような体裁で仕立てている。カバー裏の斬新な表紙が素晴らしい。クルズヴィエイガスさんもカバーをはずして会場に置いていた。それにしても、京都の青幻舎は最近、佳い本ばかり出しているなぁ。


この本に感化されて、にわかに北斎への関心が高まり、取材を申し込もうと、すみだ北斎美術館を訪ねる。常設展会場を下見し、濃密な展示のなかでも、版画作品、錦絵を差し置いて、絵手本コーナーに目と心が留まる。丸、三角、四角を組み合わせながら動物を描いていく工程とアイデアは、現代のグラフィックデザインに通じる。感嘆と同時に、北斎の多才は底なしの広がりがあり、とうてい全容を見渡せない気がして途方に暮れた。


ともかく、漫画を手がかりに北斎の創造の一端に近づいて行ってみよう。来週の取材に加えて、当面は毎日通勤の移動中、ひたすら漫画本を眺めてみよう。関心の発露から連鎖して短期間集中で一気に核心への接近を試みる。無謀な行動はいつものパターンだけど、熱情の急落も激しい。生涯、探求する気力はなく、たちまち飽きてその関心テーマから心が離れてしまうのも常なのだ。熱しやすく冷めやすい。困った男である。

LEICA M-E , MACRO ELMAR90mm f/4