2017年8月28日月曜日

可否館


福田パンを出て向かったのは、工藝店の聖地「光原社」。創業者・及川四郎さんが宮沢賢治の『注文の多い料理店』初版本を出版し、賢治の文才を広く知らしめたことでも有名。



ずっと訪問を焦がれていた場所。願いがかなって感無量。


北上川に面した敷地。透明感に満ちた午後の斜光がつくる影が柔らかく、美しい。憧れの空間に立てた悦びで胸がいっぱいになる。


敷地内で手仕事フォーラムの学習会が始まる前にコーヒーブレイク。獅子文六の小説『コーヒーと恋愛(可否道)』から命名したという「可否館」の扉を開く。この日をどれだけ待ち望んでいたことか。


恩師が「同士」と呼び、敬愛していた故・及川隆二さんがコーディネイトした瀟洒で洗練されたインテリア。大きな窓から差しこむ光が室内に劇的な陰影をつくる。


クラシック音楽が静かに流れる。丁寧にコーヒーを淹れてくださるのを待つ間。悠然とした時間、穏やかな空気に酔いしれる。鎌倉「もやい工藝」に似た極上の居心地。恩師はこの空間に感化され、自分の店を形成するにあたり、おおいに参考にしたのだろう。


水やコーヒーをはじめ、飲み物やスイーツをサーブする健やかな工藝品。それらが光のなかで輝く様子に魅せられる。特に倉敷硝子や沖縄・奥原硝子の吹きガラスがテーブルにあり、窓越しの光できらめくシーンは美しすぎて、涙が出そうになる。


民藝一辺倒ではなく、製造中止になった柳宗理さんのシュガーポットも用いているところが、光原社の方向を物語っている。割れた蓋を金継ぎして使い続けるアイデアにも感服。デザインされた工業製品も含めて、身近な焼きもので生活空間を温かく彩りたいと望む若い人には、多くのヒントを見出せるのではないだろうか。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4