2017年8月29日火曜日

「日本の手仕事をつなぐ旅」展


盛岡訪問のいちばんの目的は手仕事フォーラムが主催する『全国フォーラム2017in岩手』に参加することでした。僕は盛岡・材木町「光原社」イーハートーヴ館での勉強会から合流。光原社代表の及川倭香(わか)さんが創業者・及川四郎さんや先代の故・及川隆二さんの思い出、隆二さんと手仕事フォーラムを立ち上げた故・久野恵一さんとの交流などについてお話してくださいました。僕は恵一さんから四郎さんや隆二さんの功績について詳しく聞いていたつもりでしたが、ご家族だからこそ語れる事実に耳を傾け、新たな感慨にふけっていました。それにしても、倭香さんの凛とした美しさといったら! 光原社従業員の気持ちよくていねいな接客、隅々まできれいに整えられた建物と庭。光原社に流れる清らかな空気は倭香さんによるところが大きいのではと想像します。結局、たいせつなことは女性が担っている。そんな真理を思い起こさせる素敵で芯の強い方。


夜は盛岡駅前の「ぴょんぴょん舎」で親睦会。手仕事フォーラムのメンバー、工藝店オーナー、メイン会場を提供してくださった岩井沢さん、秋田横手市であけび蔓を編む中川原さんをはじめ尊敬するつくり手も全国から集まってくださいました。恵一さんが旅の拠点としてお気に入りだった、ビジネスホテルに隣接する店。たらふくおいしい焼肉と冷麺を食べて、酒杯片手におしゃべりしてお腹と心を充たし、寝る。この絶妙に心地よく極楽な流れを手配してくれた久野民樹さんの気遣いに深謝します。


岩井沢家をお借りしての展示テーマは「日本の手仕事をつなぐ旅」。手仕事フォーラム連載記事『kuno×kunoの手仕事良品』(会員限定の公開)がこれ以上にない理想的なかたちで4巻の書籍にまとまった『日本の手仕事をつなぐ旅』(グラフィック社)に沿った内容。恵一さんの長男で現「もやい工藝」代表の久野民樹さんがひとり自宅などから、見事な恵一コレクションの数々を持ってきてくれました。生田和孝さんの焼きものと人柄、交流について話す日、よほどの思い出と響いた言葉があったのでしょう。恵一さんは感極まっていた。その様子に、僕ももらい泣きしたのを覚えています。





恵一さんが日常で使いこんだ物も。使いこむことで手仕事の良品はいっそう美しくなる。味わい深くなる。その実践と最良のお手本。


とくに敬愛の念を寄せていた倉敷ガラス・小谷真三さんの吹きガラス。手仕事良品は使うことで暮らしに悦びをもたらしてくれるけれど、真三グラスはただ眺めていたくもなる、恵一さんの宝物。真似できない独自の造形感覚を心から崇敬していたようです。10数年におよぶ聴き取りのなか、真三さんについては何一つ悪いことを口にしませんでした。


真三さんと同じくらい尊敬していた小鹿田焼・坂本茂木さんの真似できない創作について、坂本浩二さんがつくり手の立場で解説。


地元の型染め工藝家・小田中耕一さんの語る恵一さんとのエピソードが爆笑を誘う。小田中さんとはいずれ個人的に親交を深めていきたいな。ろくに挨拶もできず、すみません!



地元ホームスパンのつくり手・蟻川喜久子さんが壇上に立ったとき、恵一さんのおなじみのジャケットが登場。


民樹さんがそれを羽織ると、体型はずいぶん違うはずなのに思いのほかフィットしていた。会場の盛り上がりもこの瞬間に最高になったように感じます。はにかみながら、けれどどこか嬉しげな表情を見たとき、恵一さんの姿とぴたりと重なるような気がしました。佳い手仕事良品を広めていく。これからの方向は民樹さんが牽引していくのだと確信したのでした。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4