2017年9月5日火曜日

フランスの夢遊病者が撮ったTOKYO


映画『旅する写真家』の上映が今週末から始まるレイモン・ドゥパルドンの写真展が銀座シャネルのネクサスホールにて始まっています。いつもながら称賛すべきプリントのクオリティ。そして階下のきらびやかなインテリアとは異質のエレガントな展示空間。訪ねるたびに無料で公開するシャネルの心意気(粋)に感謝し酔いしれる。しかも、年始に催されたカール・ラガーフェルド写真展に続き撮影OK。この会場では2度目の寛容が嬉しい。


1964年東京オリンピックの取材者として来日したドゥパルドンは競技場とアスリートのみならず都市と熱狂する人々にも広く眼を向けている。その視点がユニークで独創的。写真からは僕が生まれる1年前の東京を感じられる。東京を走ったアベベはこういう人だったのか。微妙なニュアンスの表情を浮かべたポートレイトに見入り、感慨に浸ります。



当時の東京を走っていた「チンチン電車」のレイルとクラシックな車が懐かしい。かろうじて僕の記憶にもおぼろげながら残っているシーン。町なかをランドナータイプの自転車でクルーズするこの外国人2人組は誰なのだろうか。旅(異国人の視点)と関連づけた構図をドゥパルドンは表現として確立していたことを知る。


当時の観客は僕の父親と同世代。がむしゃらに働き、国を豊かにし、重厚な一眼レフカメラを多くの人が所有していた。表情と持ち物から高度成長期に向かう活気が伝わる。陛下の手にもカメラがある。



そして50数年の東京をドゥパルドンはスナップ。彼は「夢遊病者の外国人が降り立って、撮った写真だと思ってほしい」と語っていたという。


陶然とさまよう外国人の眼に今の東京はどう映ったか。画一的なサラリーマンのコスチュームと表情、しぐさ。秩序のない色と造形が氾濫する町の写真から心の動きを想像します。高層ビルが隙間なく並ぶ都市は午後の斜光でコントラストの高い陰影が生まれる。その光景をとらえる眼が佳いなぁ。真似してみよう。


展示の好例を会場では観て学ぶことができる。展示物をよりよく魅せるためには、人間の視野や見方を十分に配慮しなくてはいけないと恩師はよく語っていた。理想は「収まりのよい展示」。50mmという人の自然な視野に近い(ぼんやりしているときに肉眼で視認できる範囲に近い)レンズで展示を覗くと、ことごとく絶妙に構図(視野)に心地よく収まることに気づきます。キュレーターの意図が明確に伝わる写真の組み合わせと配置。さりげなくも熟慮された展示。高い知性とセンスに感嘆させられる空間。今の東京で写真を愛でる最上のギャラリーだと僕は思っています。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. f/1.4