実家の押入れから、こんな物も発掘した。90年代初頭にシーカヤッカー内田正洋さんの道具選びに感化されて購入した防水性の双眼鏡。休日にシーカヤックを漕ぐ手を休め、近くを航行する漁船の位置や、沖合から海岸の地形を確かめるために手に入れた。その後、内田さんとシーカヤックのマニュアルや雑誌を制作する運に恵まれたが、撮影のロケハンでも絵になるスポットを探すのに大活躍した。不意に海に落としても沈まないよう、北米Op/Tech社のネオプレンストラップを装着。これは当時、神保町への自転車通勤途中、毎日のように立ち寄っていた銀座「タートル商会」で手に入れた。
内田さんはもっと高価なニコンの、10倍双眼鏡を愛用していたが、僕は手が出ずに北米タスコ・オプティカル社の安価な製品、しかも標準的な倍率8倍の物を妥協して選んだ。揺れる船上ではむしろ8倍の方が使いやすいと内田さんは教えてくれた。長年、高湿度な場に放置していたのにカビも曇りも生じていないレンズは日本のメーカーが手がけたようだ。
波がかぶるデッキに無造作に留めながら使っていたのに、ボディには錆びが出ず、稼動部の動きは今も滑らか。90年代はじめまでの、MADE IN USAのヘビーデューティな造りと、日本の光学技術の融合。いいところ採りのタフでコストパフォーマンスに優れた道具。案外、良い買い物だったのかもしれない。長いあいだ放っておいて、ごめんなさい🙏と、もの言わぬ物に謝る。今年はシーカヤッキングを再開して、この双眼鏡を海へ持ち出そうかなと、新たな目標が心に浮かんだ。
SIGMA DP3 MERRILL