2019年2月1日金曜日

MONUMENTS



ニューヨークの「ワールド・モニュメント財団」が昭和初期以降に建てられた築地の木造建築群を緊急の修復・保存が必要な「危機遺産」に選んだのは3年ほど前。以来、ときどき朝や昼休みにパトロールしているが、開発に呑まれた物件もあり、危機レベルは増すばかり。自分にできるのは記録に留めることだけだが、景観を成す遺産に価値を見出せないのか残念に思う。
先日は遺産の主格的存在、築地場外市場の圓正寺を撮りに行った。寺の側面を店に貸し出し、銅板張りの看板建築と寺が一体化した珍しい形態。一枚の写真でその希少さを表わそうと、時間帯を変え、さまざまなアングルを探したが、どうにも絵にならない。



絡む電線は諦めるとしても、雑多な物が特異な外観を台無しにしている。それで過去に撮られた画像を検索したら、ある建築家が捉えた一枚に眼が留まった。それは側面の店舗が軒先に海産物を並べて販売しているシーンだった。暖色の灯りが青緑に風化した銅板の色合いを引き立てる見事な効果をもたらしていた。
店舗のホームページに行き着いて驚いた。昭和20年創業のその一軒が2019年1月末日をもって閉店するという。前日の1月30日に知ったのも縁だろう。営業最終日の朝、神妙な気持ちで向かい、曇天の絶好な光のなか、思う通りに撮ることができた。
幸運なめぐり合わせに感謝しながら、こうして当たり前に在り続けると思いこんでいる景色が、ある日、ひそかに消えていくのかと、しんみりとした。永遠なんてないとわかっていても、ひたすら寂しさが募る。

LEICA M-E , 7artisans 28mm f1.4