2020年10月12日月曜日

憧れの盛岡



3年前の夏、盛岡市材木町の工藝店「光原社」での催しに呼ばれた。工藝美について教えてくれた恩師の思い出を語る壇上に立つまでだいぶ時間のゆとりがあったので、盛岡の町を歩きまわった。北上川、雫石川、中津川など豊かな水の流れや遠くに浮かぶ山を眺め、コッペパンの人気店をはじめ気になる場所を訪ねた。




光原社ではずっと欲しいと願っていた桜樹皮を木筒に巻いたコーヒー豆容れを買い、敷地内の喫茶室で美味しいドリップコーヒーを味わい和んだ。




役割を果たした翌日は古い木造商家が残る紺屋町を散策。



このエリアには飲料に適した地下水が数カ所で湧き出ていて、湧水マニアだった恩師もたぶん汲みに来ていたんじゃないかと想像し、もう会うことができないんだと寂しさが募った。



注文を受けてからコーヒー豆を焙煎する工房では買ったばかりの容器に200g詰めてもらった。この日には行けなかったが、風情あるウイスキーバーもこのエリアにあるらしい。



同年の秋には紺屋町に新刊と古書を扱う書店「BOOKNERD」が開店。本マニアと自認する店主、早坂さんのセンスに強く惹かれ、彼が選び勧める、ずっと読み重ねたくなる名書をときどきオンラインショッピングしている。実店舗の扉を開く日を夢みながら。美しい工藝店、美味しいコーヒー、清らかな水、冷麺、しっとりと落ち着いた酒場、そして良書を厳選する書店。道楽者のぼくが好きなものが集まるこの文化的な町はなんて素晴らしいんだろう。葉山から移住するとしたら、その最有力地になるだろう。

紺屋町にはもう一軒、魅了的な快楽の匂いがする店があると早坂さんが制作したzine 『くふや くわづ』で知った。和食店「くふや」である。光原社で働いていた平井久美子さんと、ジャズを愛で喫茶店を営んでいた経歴をもつ小田原良二さん。骨董好きな二人の美意識が満ちた空間だという。コロナ渦以前から何度も荒波にもまれながらも小商いを36年続け、生き抜いてきた平井さんの深く誠実な言葉とブレない流儀がこのzine で綴られ、むさぼるように数10分で読了。地元の写真家だからこそ写せた空気感がよく伝わる写真も美しい。この一冊に出会えて、盛岡をたまらなく再訪したくなった。その旅が待ち遠しい。

LEICA M-E , SUMMILUX50mm ASPH. / f1.4