日比谷に用事があり、銀座、有楽町を抜けて歩いて向かう。せっかくの晴れた日。散歩しながら、古い建築物を道中、スナップしようとバッグにはライカを忍ばせる。そんな町歩きのさい使うのは1990年代に銀座レモン社で入手したエルマリート28mmという広角レンズ。現行の5代目は非球面化され、彩度とコントラストの高い今どきの描写をするけれど、この一世代前の球面レンズは色味、陰影のコントラストが穏やか。そのため、撮影後の液晶画面に浮かぶ絵はいたって地味。けれど、明るい部分から暗い部分へのグラデーションを実に繊細にとらえる力が素晴らしい。撮影したRAWデータを現像すると、暗部を明るく持ち上げる補正にも、粘り強く応える。それに、被写体の色も華やかに誇張せず、見た目に近い、しっとりとした色合いに。陰影が深く、長い年月で風化して、くすんだ色合いに変質した建築物の雰囲気を写すのに特徴を発揮する、いぶし銀のような職人レンズなのです。もちろん、その渋い描写は好みが分かれるところだけど、同じレンズでも世代別に異なる描写を楽しめるのがライカ製品の魅力。
銀座和光の裏側。品のよい色再現がこの建物の品位、上質感を伝えます。 カラーもいいけれど、モノクロに変換すると、またいい感じ。一粒で二度、描写の妙を味わえるのが球面レンズの醍醐味かな。
6年間通った数寄屋橋の泰明小学校。当時、周辺を先生から借りた一眼レフカメラ片手に徘徊し、銀座の粋を子供心に感受。写真好きの今につながる、よい時間を過ごせた場所。
泰明小学校の斜め向かいにあるインターナショナルアーケード。JRガードに広がる通路。反対側の西銀座デパート内が通学路で毎日の散歩コースだったけれど、この道はちょっと覗いて、その怪しさに恐れをなして、侵入することはなかった。
首都高速脇の直線通路。この道の存在もずっと不思議で仕方なかった。謎への興味が今の「こみち」好きへとリンクしているのかもしれない。
ガード下の暗がりと、日比谷公園方面に照射する光の強弱に目を細める。
なにかがひそんでいそうな怪しさにゾクゾク。
その怪しい空間にもぐりこみながら、歓楽にうつつを抜かせるのが、有楽町から新橋へと連なるガード下の素晴らしいところ。
目的地の手前、日比谷ダイビルのレリーフに足が止まる。
村野藤吾さんのデザインが新しいビルのそこかしこで生命をつなぎとめている。
帰路は、「東京旧市街を歩く」(森岡督行さん著)でインパクトを受けた銀座の老舗バー「ボルドー」へ。グリーンに覆われる風情ももちろん、名前もいいなぁ。
いつか、この扉を開けてみたい。経済的には不似合いですが、50歳男になった今、ひるむことなく、さらりと銀座の夜を過ごしてみたい場所のひとつです。
LEICA M-E , ELMARIT28mm 4TH GENERATION