500円であれこれ和洋の料理が用意されたビジネスホテルの朝食をたいらげたあと、前の晩に口にできなかった静岡おでんへの未練がおきあがりました。せっかくだからと、食後の運動もかねて朝からおでんを食べられる店までてくてく散歩することに。ホテルが立つ鷹匠町から歩いて16分ほど。「大やきいも」は明治の創業以来、地域で愛されてきた店。
静岡の旅情を誘う甲斐みのりさんの名著「ポケットに静岡百景」のP.54-55にも写真が掲載されている店内の趣き、懐かしさ、味わいにいきなり惹かれます。
市内葵区の西宮神社で催される商売繁盛を紀念するお祭り「おいべっさんのえびす講」にて特注したという特大の縁起物が飾られています。その色かたちに、芹沢の気配を感じたり・・・。
看板商品は大学芋。自分たちで煎ったゴマ、自家製の蜜など、食べ物に用いるものはひとつも買ったものはないそうです。帰りの道中でいただこうと、箱詰めにしてもらいテイクアウト。
塩を敷いた大釜で蒸し焼きする紅あずまや安納芋もおいしそう!
しっかり煮こんだ、品のよい味のおでんも食べられます。三代目の中村容子さんとおしゃべりしながら、静岡ならではの具を選びます。静岡出身の甲斐みのりさんは著書のなかで、静岡市の住民の気質として「のんびり、おだやか」と記述。その表現がぴったりと当てはまることを街歩きで実感。道ですれ違う人、向き合う人のやさしさに心やすまります。いいところだなぁ。
黒はんぺんなど、あれこれ。どれも一本70円(だったかな?)。20数年来、継ぎ足したつゆがよく染みこんでいます。これもテイクアウト。
はじめて眼にする「みかん水」も売っている。
鮭、梅、おかかと3種のおにぎりもお母さんたちが握っている。帰路の昼に食べて、そのおいしさに驚きました。
鷹匠町へと戻るまえ、駿府城跡の公園で休憩し、お堀を越え、iPhoneのgoogle mapのナビゲーションで最短ルートの路地を選択。地元の人が抜け道に利用するような路地に入る手前で、歴史がありそうな構えの和菓子店が目に入り、立ち寄ります。慶応3年(1867年)創業の松柏堂本店。
毎日つくりたての安倍川もちが店頭に並ぶそう。この日は11時すぎからとのことで、タイミングが合わず残念。かわりに松から着想した店のロゴをかたどった「いちえ」を求めます。かたちがかわいく、洋の焼き菓子的な食感をもつ素朴な味。
路地沿いには、菓子も売るホームベーカリーや小さな和菓子店がそこかしこに。
ぶらりと歩いて菓子とパンを当たり前のように、手軽に買える街もまた、文化度がきわめて高いとも思います。人が多すぎてストレスが街中に蔓延し、とげとげしい空気の東京中心部を日々行き来する者にとって、静岡市葵区の平穏さがただ羨ましい。半日歩きまわって、心のコリをすいぶんほぐすことができたようです。たった1泊2日で静岡市にすっかり魅了され、同時に地方都市の生活環境の豊かさに感じ入りました。
LEICA M-E , SUMILLUX50mm