2015年11月11日水曜日

安息



台北でいちばん惹かれたもの。それは茶を愉しむ文化であり、その場を供するティーサロンでした。先日、書いた「小慢」は真っ先に目指したい空間であり、台北に到着した月曜日に足を運びたかったのですが、google my mapのGPSでたどりついた台北師範大学裏のエントランスで定休日であるとわかり愕然。詰めの甘さを悔いながら、そこから緑豊かでしっとりとした風情がある路地から路地へ歩き抜け、「Wistaria Tea House藤廬へ。日本統治時代の1920年代、高官の官舎として使われていた建物を活用。以前は文化人が集うサロン的役割も果たしていたそうです。



建具や照明器具などインテリアが大正時代に建てられた、ぼくのかつての実家に雰囲気が似ている。今の住まいの土間を照らす控えめな灯りとほぼ照度は同じ。目を凝らすと手元がうっすらと見えてくるほどの明るさがいい。異国の街をさまよい昂った感情がすみやかにやわらいでいきます。


入口からテーブル席が並び、その奥には畳の部屋が控えている。テーブル席はちょっとざわざわしていて人気のカフェみたいな空気感。幸運なことに、奥へと通されると、そこはまったりと風雅な静けさが空間を占めていました。地元の客らしき人たちは、足を伸ばしてくつろぎ、ゆっくり、ゆったりと茶を味わっている。ときおり、スマフォの着信音が無遠慮に鳴り響くけれど、気取らず、茶の深い精神世界を愛でる文化に魅せられます。


アンティーク、絵画、花、音楽、書画、眼に入るもの、聴こえるもの、触れるものが静かな美しさを湛え、極上の心地よさ、センスのよさ。ポットで6~10杯のお茶を飲むうちにすっかり陶酔。まるで桃源郷にまよいこんだ気分に。客人は形式にとらわれず、おのおのにくつろぐ様子がいい。リラックスのあまり、ぼくもiPhoneやWi-Fiルータの充電をしちゃったりして。



1時間ほど過ごして菓子代含めて2,000円ほど。自分には非日常的なサロンですが、旅の途上では甘美な夢に浸りたいものです。



メニューには日本語が添えられているからオーダー自体はスムーズ。流麗な英語を使うスタッフの身のこなしも美しい。ドライマンゴーをお茶請けに、茶の煎れ方を何度も習練しました。この心地よさは、葉山「Sunshine+Cloud」の以前のレストハウスとどこか似通っている。その耽美的な平穏を味わいに再訪できるだろうか。店を出るとき、ちょっとせつない気持ちになりました。

LEICA M-E , SUMMILUX50mmASPH.