台北の街をくまなく歩きまわると、自然と気づかされるのがホームベーカリー店の多さ。セブンイレブンの密集度では世界一とされる街。24時間営業のスーパーも点在し、日用品の入手は実にコンビニエンスな環境です。また、スタバをはじめ、台湾独自のコーヒーチェーン店もそこかしこで見かけるのですが、パン屋さんの充実ぶりにも驚かされます。しかも、そのベーカリーの質が高い。例えば台北の高級ホテルも御用達のフロリダベーカリーなど、全国規模のチェーン店ではなく、台北固有の個性的なベーカリーで安くておいしいパンが気軽に買えて、多彩な種類がパン(麺包)を並べる店がどこも賑わいを見せていました。そんなパン文化が高次元で深く浸透している国だからでしょうか。2010年にパリで催された世界一のパン職人を決める大会「マスター・ド・ラ・ブーランジュリー」でチャンピオンとなった呉宝春さんの店が本店の高雄のほか、台北にも支店があり、パン好きを魅了しています。
ぼくが訪ねたのは、台北市内の誠品松菸店に 入る支店の方でした。台湾ブランドのセンスのよい雑貨、国内外の本をセレクトした誠品書店、ティーサロン、グルメなどジャンルの異なるものをパッケージし て、質が高く洗練したライフスタイルを提唱する空間。代官山や鵠沼のT-SITEはこの誠品グループの展開を参考にしたともいわれています。美しい照明とインテリ アで構成される各フロアを見て回っていると夢心地のふわふわと浮きたつ心情に。演出に感化されやすいのです(笑)。
この建物の地下2階に広々とした吳寶春麥方店があります。パンは日本に持ち帰りたかったので、旅の最終日に目指すことにしていましたが、ガイドブックやインターネットの情報には長い行列は覚悟して、という一文があったので、腰が引けながら、事前に状況下見をしていました。
スタッフの接客も悠然としていて気持ちのよいもの。店内の撮影も当然とばかりに許可していただけました。
食事に合うシンプルなパンから惣菜パン、菓子パンまで選ぶのに迷うほどのバリエーション。あれこれ求めたいのですが、手荷物としてかさばってしまうので、泣く泣く一つだけ選びました。
一つといっても、 人の顔より大きなビッグサイズ。ぎっしりと中身が詰まったパンは重量感もたっぷり。「あった!」と喜び、手に取ったのは『酒醸桂圓麺包』。柔らかな生地に、台湾特産のドライリュウガンとワイン、クルミが練りこまれている、大人風味のパン。4年毎にパリで催される、ベーカリーのW杯こと「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」の2008年大会で世界2位に輝いたパンです。(このパンの隣には、2010年大会で世界1位となった『荔枝玫瑰麵包(ライチ薔薇パン)』も並べられていました)。
ふんわりとした触感。香ばしい良い香りがして、帰りの飛行機内でぱくつく誘惑にかられましたが我慢。はじめは焼いたり蒸したりせず、そのままちぎって口に放りこむ。ドライリュウガンの酸味が思いのほか癖がなく程よい。ワインの風味、クルミの滋味などと調和しつつ、旨味が押し寄せてきて感動。
トースターで焼くと中のしっとり感はキープしながら、皮はパリパリと香ばしさを増し、これまた旨い! ワインにもよく合うから、朝だけでなく、夜もお酒とともに、ゆっくりと味わいたいなと思いました。世界的に評価された特別なパンが切らさぬよう、日々たくさん焼かれ、日常的に入手しやすい台北のパン文化。羨ましさで悶絶しちゃいました。
LEICA M-E ,SUMMILUX50mm ASPH.