2016年3月1日火曜日

フィルム熱の再燃


先日1号限りで復刊した雑誌「relax」。前・岡本仁編集長の自由な誌面づくり、アートディレクター小野英作さんの軽妙なレイアウトに心酔したのは10数年前のこと。当時の昂る気持が、記事もデザインも往時を偲ばせる構成を目にして蘇りました。この復刊号で仕事場の宣伝ページを見開きでいただけたので、NY取材時に路上でスナップした写真を配置させてもらいました。すっきりと余白ある白地に、ハッセルブラッドの正方形写真を並べ、文字は親しみ深いゴシック書体を選択。そうしたのは、岡本さんと小野さんへのリスペクトの想いから。そうすることでrelaxのもつ雰囲気に馴染むだろうと考えたのでした。写真には関心がなさそうな営業担当者の女性がコントラストがゆるいネガフィルムの写真を観て「ワタシ、こんな感じの写真が好きなんです」と意外な感想を述べたこと。復刊号の用紙が上質で、ネガフィルムのスキャンデータに忠実な美しい印刷をできたことが嬉しくて胸がいっぱいに。その悦びから、にわかにフィルムによる撮影熱が戻ってきました。



復刊号の発売日が迫る週末。開店当初から縁があった茅ケ崎のカフェが閉店することを知り、駆けつけました。想い入れある場面はデジタルではなくフィルムで写して残したいから、久しぶりにネガフィルムとハッセルブラッドを携え、店へと向かいました。人がやさしく、生活に便利な小さな商店も多い。暮らすにはまことに居心地のよい地域という、浜竹のストリートに立地。扉は、わかなパン1号店(自宅の庭にあった小屋)の木戸を活用しています。



逗子や鎌倉の雑貨店「chahat」の内外装、現ビーチマフィン、元coya cafeのエクステリアなど、古材を用いた味わいある空間を創造している大工インチャリさんこと村田さんの傑作。オーナー岡崎さんにたっぷりと時間を与えられ、全幅の信頼のもと着手した店。iPodやMacから複数のヴィンテージ・トランジスターラジオへとトランスミッターで音を飛ばし、音楽をいろいろな方向から共鳴。理想の音響効果を生み出す試みも店内でなされていました。このアイデアもインチャリさんによるもの。




間接照明でほのかに照らされる室内。心やすまります。あの温かみのある空気感は店主の自然体のキャラクターや、インチャリさんとっておきの風化古材が作用したのでしょう。狙ってもなかなか醸し出せないもの。二人の美意識、嗜好が散りばめられています。





2階はギャラリースペース。地域のアーティストを中心に場を開放。茅ケ崎のアートシーンを牽引していた貴重な場でした。ぼくもオープン時にこのモザイク床を題材に写真を撮り、記念イヴェントに出品。当時の高揚した気分を想い出し、感傷的な気持ちになりました。



シャイな岡崎さん。最後まで仕事中の表情は撮らせてもらえなかったなぁ。ひとつのことに真摯に向き合う生真面目な人なのです。聖域に立ち入ってごめんなさい。



深煎りの自家焙煎豆のコーヒーがすごく好みでした。ブルーとグリーンが混じる美しい色合いの壁を背景に最後の一杯を味わいます。福岡の郊外で米づくりの農家になるという岡崎夫妻。いずれは会いに行きたいな。幸運なことに、この空間は鵠沼海岸のビストロ「ランタン」がそのまま引き継ぐそうです。その良きつながりも、岡崎さんの人としての魅力がたぐり寄せたものだと思います。

追記:照度の低い室内。シャッタースピードは1/8~1/15秒ととてもslow。けれど、どっしりと重量のあるハッセルブラッドを両手で包みこむ独特の撮影ポジションが手振れを最小限にしてくれました。懐かしい色と光。ネガフィルムと親密に響き合っていて、フィルムでスナップできてよかったと安堵。

HASSELBLAD500CM , PLANAR80mm ,  KODAK PORTRA400