12枚撮りのネガフィルムを買って、現像に出して、ネガをスキャンしてもらう。1本あたり2,000円ほどの費用と、1週間の時間を要する手間を厭わずに写真を愉しむ。手軽ではないし、今や趣味としては酔狂的な行為と言えましょう。けれど、特別な経験やシーンを前にしたとき、ぼくはその場面や時間を気軽なデジタルカメラではなく、フィルムに焼き付ける面倒な手段を選びたくなります。しばらく忘れていた、その気持ちが近頃いっそう強まってきています。ハッセルブラッドを防湿庫から引っ張り出し、コダックの「ポートラ400」を久々に購入。さらには、パンナムの元社員から頂いた50年前のライカの一眼レフ用レンズと、そのカメラのオーバーホールを浅草「ハヤラ・カメラ・ラボ」にお願いしました。カメラが戻って来る2ヶ月後以降は、取材でも積極的に活用しようと考えています。
ネガフィルムとオールドレンズが描く、穏やかな味わいはやっぱりいい。漁師という狩猟の世界から離れて、悠々と海辺でくつろぐ矢嶋四郎さん。自然と対峙する仕事から身を引いて、いっそう柔和になった表情を撮るのによりフィットしているのは、ネガフィルムだと改めて思います。フィルム写真をあえて多用する雑誌「TRANSIT」編集長、加藤さんが言っていた「フィルムの写真は見ていて疲れないから好き」という感じようが、よくわかります。
とはいえ、デジタルカメラの利便性ももちろん捨てがたい。ライカのデジタル・レンジファインダーカメラとフィルムカメラを場面ごとに使い分け、両方のメリットを活かしつつ、2つの世界を行き来して写真を楽しみ、また仕事の道具として愛用していくつもりです。生涯メンテナンスの面倒を見てくれる、そしてそれが可能なオールド・フィルムカメラを愛する浅草の職人に出会い、お話できて、フィルムってたぶん無くなることはないだろうなって確信しました。むしろあの佳き味わいを求める人がどんどん増えていく予感もしています。
LEICA M-E , MACRO-ELMAR90mm (CAMERA)
HASSELBLAD 500CM , PLANAR80mm , KODAK PORTRA400