かたちと使い勝手が良い実用品に強く惹かれます。とりわけ、物を運ぶ道具であるバッグで自分のストライクゾーンに入ったものは欲しくてたまらなくなります。その衝動的な気持ちはたいてい抑えることができず、さまさまなバッグを保持しているのに手に入れてしまいます。その行為は傍目には「散財」と言われても仕方がありません。なぜ、ぼくがこうまでバッグを偏愛するのか、精神構造を専門家に一度鑑定してもらいたいくらいです。鎌倉材木座でひっそりと気まぐれに開いていた古物店で出合ったバッグもその一つ。収集した物を分けてくれた店のオーナーによればスイス軍のたぶん弾薬ケースだとか。底にアルミで縁取られた水抜き用の穴が開いていて、内側のセンターに中仕切りが縫いこまれていました。本体は分厚いキャンバスですが、たすき掛けも可能な長さのショルダーストラップをはじめ、随所に革で補強されていて、その緑の色合いと素材配置のセンスにMADE IN SWISSならではのモダンさを感じます。戦場で使うミニマルな機能主義を極めているはずなのに、何気なく洒落ているのです。
一目で心を撃ち抜かれて購入したのですが、意外と活躍の場面が少なく、屋根裏に控える存在に甘んじていました。店のオーナーと同じく縫合された中仕切りを切り離し、荷物の少ないお出かけで使おうと機会をうかがっていましたのですが・・。万年控え選手の不名誉を挽回できそうなチャンスが訪れたのは、つい先日のこと。クランプラーのカメラポーチ「ヘブン」Sサイズを眺め、ふと直感が走り、スイス軍のバッグに入れてみたら、あつらえたようにジャストサイズだったのです。カメラポーチを軽快に持ち歩きたい気分にはましくベストな組み合わせじゃないですか! 自分の好きな物それぞれの良さが響き合うようにフィットする。そんな偶然が不意に訪れることがありますが、物好きな男としては、物を再評価できるその瞬間は至福の感情で充たされたりします。いったん冷めた物への情愛が蘇るとでも言いましょうか。弁当箱や本を持ち歩く必要はない日には、このバッグでカメラを携えてみよう。突然、日の目を見たスーパーサブ的なる物を使う、愛でる場面を想像するだけで、今はかなり心浮かれています。
LEICA M-E , MACRO-ELMAR90mm